えばでONE

04
C.F(c.f@ijk.com


 季節が秋から冬に変わる頃、昼食後の5時間目、退屈な授業の真っ最中。
 ぼんやりと授業を受けている真嗣に、隣の席から声がかかる。
「真嗣」
「ん?なに?」
 横を向くと、健介が折りたたまれた紙切れを差し出している。
 受けとって、広げてみる。
『今学期最後のチャンス!
 くじ引きによる当選者一名様に、意中の彼女に告白する権利を進呈』
 要は引っ込みのつかない状況に追い込んで、その姿を楽しもうと言う趣向らしい。
 もちろん、その告白が受け入れられるなんて言う保証はどこにもない。

「僕はいいよ、そんな……」
 告白したい人なんて居ないし、と続けようとしたのだが
 健介の方を向いてみると、期待に満ちた目でくじを差し出している。
「大丈夫、どーせ当たりゃしないって」
 そう言って、くじを引くように示す健介。
 教室を見回してみると、かなりの数の男子生徒(寝てる奴以外のほぼ全員)が真嗣の方を見ている。
 安堵感を漂わせる者と微妙に落ち着きのない者が居るが、皆一様に期待に満ちている。
 とてもじゃないが、ここまで来て断れる雰囲気ではない。
 ケンスケの手の上に残っているくじは後10個ほど、当選者が出た時点で終了だろうから確率10分の1。
 あきらめてくじを引く。

 広げてみると……

『当選、おめでとうございます』

 ……当たりだった。

(どうにかして誤魔化せないかな……
 証拠隠滅……はどうせばれるだろうし
 意中の彼女なんて居ない……と言って許してもらえるとは思えないし)

 などと思っているすきに、健介がくじの紙を奪ってしまう。
 そうして、その内容を確認して、意地の悪い笑顔を真嗣に向ける。
 彼らの様子を見て取ったのか、真嗣の当選は参加者全員に知れ渡ったようだ。





 6時間目、真嗣は考え込んでいた。

『好きな娘がいないとかいうのは却下だからな
 それから、今日中に教室でって事で、よろしく!』

 5時間目と6時間目の間の休み時間、健介はそう通告してきたのだった。
(だけど、誰に?)
 クラスの女性陣を思い起こす。
 ほとんど話もしない人を巻き込むわけにも行かないので
 自然と検討の対象は絞られる。

 葛城美里。
(美里先生……
 『美里先生!僕は前から先生の事が……』
 『そーお、じゃ、先生といい所にいきましょ』
 事態をもっと混乱させるだけだな)

 赤木律子。
(律子先生……
 『律子先生、先生の事が好きなんです』
 『あら、真嗣君、嬉しいわ。それじゃ、この薬を飲んでみてくれないかしら』
 実験台になるのは遠慮したいなぁ)

 洞木光。
(いいんちょ……
 『いいんちょ、いや洞木さん、君の事が好きなんだ』
 『真嗣、裏切りおったな(怒)』
 何で冬二が出てくるんだ?
 それはともかく、いいんちょも駄目だな)

 綾波玲。
(綾波……
 『綾波!僕とつきあってくれ!』
 『嫌です』
 ……(汗)
 止めとこう)

 惣流明日香。
(やっぱりここは明日香かな……
 『明日香、今までは幼馴染だったけど、今日からは恋人になってくれないかな?』
 『あんたばかぁ?!そんなの100万年早いわよ
  まっ、真嗣のそのボケボケっとしてる所をどうにかしたら考えてあげても良いわよ』
 うーん、明日香が一番安全かなぁ)





 と、言うわけで放課後である。
 授業終了後、無責任な応援の声をかけられる事、3度。
 拒む事など出来はしない事を痛感させられる。

「光ぃ〜、早く行こうよ〜」
 明日香の声に我に返る真嗣。
 見ると明日香が教室のドアの所で光に手を振っている。
「今行く〜」
 光の声。どうやら、一緒に帰るらしい。
「あっ、明日香っ、ちょっとまってよ」
 慌てて声をかける真嗣。
「なに〜?あたし今日は光とワッフル食べに行くんだから
 しょーもない事だったら、承知しないわよ」
 近頃の女の子達の流行は山葉堂のワッフルだ。
 その中でも人気のある激甘ワッフルは放課後の時間帯になると早々に売り切れてしまう。

 呼吸を整えながら、明日香に近寄る。
「あのっ……その……」
「何よ、早く言いなさいよ」
「明日香……その、前から、僕、明日香の事が……」
「えっ?」
「好きだったんだ。だから……」

「馬鹿……そんなこと、わかってるわよ

「えっ?なに、なんて言ったの?」
馬鹿って言ったのよ!!ほら、光、早く行きましょ、また売り切れちゃう」
「えっ、でも……碇君……」
「良いのよ、そんな馬鹿」
 足早に去っていく明日香。
 光も真嗣を気にしつつもそれに従う。

「明日香……」
 後に残されたのは事態が把握できない1人の少年と
 今まで以上に期待感をあらわにしているクラスメイト達だった。






 本日のメインイベント(鈴原冬二氏談)から1時間ほど経って、真嗣と冬二、健介は
 ゲーセンへのショートカットコースでもある公園を歩いていた。
「もう、あんな事するから明日香が怒っちゃったじゃないか
 明日香の機嫌を直してもらうのって大変なんだよ」
「ま、それもくじの一部なんやから、がんばりや」
 にやりと笑ってはいるが、いたって能天気な声で冬二が言う。
「おまえら……気づいてないのか?」
「え?なんのこと?」「何のことや?」
「はぁ…」
(委員長も惣流も苦労するよなぁ)
 もてるわけではないのに、心の機微には聡い男、健介。
 つらい役回りであった。





「……いいの?」
 山葉堂でお目当ての激甘ワッフルを買い、同じ公園で食べていた2人。
 明日香は教室で真嗣をどなりつけて以来、ほとんど声を発していない。
 当初の怒気も廊下を歩くにつれ薄れ、学校の門を出るころにはうつむいて光の隣を歩いていた。
 藤棚の下のベンチに座っている今も、視線は地面の一点にとどまったまま。
 時折思い出したようにワッフルを食べる。
「碇君のこと、好きなんでしょ?」
 ワッフルを食べようとした手が止まる。
 しばらく固まった後、今まで以上に下を向いて、
「あんなの信用できるわけないじゃない!!
 どうせ相田とか鈴原とかが真嗣に遊びで言わせたのよ
 こんな乱暴でがさつなあたしなんて真嗣が好きになるわけないわよ
 今までだって、幼馴染だから付き合ってるだけなのよ……
 最初はいつもの口調だったのが、どんどん小声で弱気になっていく。
(明日香っていつもは自信過剰なぐらいなんだけど
 こういう時になると一気に沈んじゃうのね……)
「そんなことな……」

「お、あそこにいるんはいいんちょと惣流やな。
 いいんちょ〜、そこでなにしとるんや〜?
『そんなことない、明日香って魅力的だと思うし、碇君だってきっと明日香のことが好きよ』
 というはずだった台詞は、冬二の大声にかき消されてしまった。
 そして、声のした方向に目を向けた光は、そこに彼女の思い人と真嗣、
 それに、やっちまったぁという顔の健介が走ってくるのを見た。





 光と明日香のいる藤棚へ駆け寄ってきた真嗣は、早速、光と世間話をはじめようとする冬二を制して、
 そのまま明日香の座っているベンチの前に立った。
 明日香は真嗣だとは雰囲気からわかるが、顔を上げて真嗣を見ることはできない。
「あの、明日香、さっきのは仕方なくやったことで……その、怒ってたらごめん」
 いつも内罰的と明日香に言われているままの態度の真嗣。
((最悪))
 光と健介はあまりにも予想通りな展開に同じ感想を抱いた。

 明日香は真嗣の言葉にも下を向いたままであった。
 そして、彼女は唇をかみ、こぶしを握り締める。
『もう泣かない』そう決めた自分を何とか守り通そうとする。

 しかし、反応を返さない明日香に真嗣はさらに言ってしまう。
「はは……僕なんかに告白されても迷惑なだけだよね……」
 限界だった。
 次の真嗣のせりふは『大丈夫。そんなことぜんぜん思ってないから』だろう。
 彼女の思いを否定する言葉。
 付き合いの長さがそれを予想させてしまう。
 それは彼女が一番聞きたくないもの。

 ばっしーん
 明日香は立ち上がって、人生最大の威力を持った平手打ちを真嗣に加える。
 その目からは決して流さないと決めていた涙がこぼれていた。
 そして、彼女は逃げ出した。




















『もう泣かないの』
『パパもママもいらないの』
『あたしは一人で生きるの』

 そう、最初はそう思ってた。
 でも、あるとき、公園で真嗣に会った。
 最初のころ、真嗣はずっと泣いていた。
 悲しい涙だった。
 誰かに見てほしい、そんな涙じゃなかった。
 本当の悲しさを知ってしまった涙。

 えーん、えーん

『あの子、みなしごなんですって』
『母親が事故に遭って、その事故の救援に向かった父親も、二人とも帰ってこなかったそうよ』

 えーん、えーん

 他人との関係を拒んでいたあたしだったけど、真嗣には抵抗感はなかった。
 そして、あたしは真嗣にハンカチを突きつけながら言った。

『ほら、もう泣かないの、男の子でしょ』

 顔を上げてあたしを見た真嗣は、あたしのハンカチで涙をふきながら言ったんだ。

『でも、みんな僕を置いて行ったんだ。
 父さんも母さんも、みんな僕を捨てて行ったんだ。
 永遠に続くと思ってたのに……
 永遠なんてなかったんだ』

 このとき思ったんだ。あたしを必要としてくれるかもしれないって。

『えいえんはあるよ』

 いつまでもあたしが真嗣を見ててあげる。永遠に。

 それからあたしは真嗣と一緒にいるようになった。
 最初は通学路で待ち合わせていたけど、あたしが預けられてる家の人は忙しくて、
 ほとんど毎日1人で朝ご飯を食べていることがわかると、
 真嗣は今までより早く施設を出て、あたしを起こしに来るようになった。
 そんなあたしたちを冷やかす奴もいた。
 もちろんそんなことを言う奴を許しはしなかったけど、予防策として今みたいな態度をとるようにした。

 高校に入ると真嗣は施設を出て、1人暮しをはじめた。
 垣根が1つ取り払われて、あたしは今まで以上に真嗣と一緒にいるようになった。
 家の人に干渉されるのは嫌なので、泊まったりはしなかったけど。
 朝は真嗣が起こしに来る。お弁当は真嗣の手作り。夕飯は真嗣のところで。

 でも、不安は消えなかった。
 あたしがどんな無茶をしても、真嗣は許してくれる。
 でも、真嗣はやさしいから、だからなのかもしれない。
 口では頼りない真嗣にあたしが構ってるということになってたけど、
 実際のところ、依存してるのはあたしのほうだ。
 見てくれる人が必要なのは、あたし。
 真嗣は見てくれる人なんて必要じゃないのだ。
 真嗣の悲しさを消すこと、それがあたしにできるのだろうか。

 そして、あたしは恐れてきた。
 真嗣に否定されることを。
 真嗣はあたしを必要としているのだろうか?





「明日香……その、前から、僕、明日香の事が……」

「好きだったんだ。だから……」

 うれしかった。

 最初、怒ったのは、みんなの前であんなことを言ったから。
 でも、そのうれしさはすぐに消えて、いつもの不安がよみがえった。
 そして、その不安はとうとう現実のものとなってしまった。

「あの、明日香、さっきのは仕方なくやったことで……その、怒ってたらごめん」

「はは……僕なんかに告白されても迷惑なだけだよね……」

 あたしを好きだなんて思ってない。
 あたしを必要としてない。

 あたしを頼ってよ。
 なんでもしてあげる。どんなことでも。
 だからあたしを必要としてよ。





『そんなことぜんぜん思ってないから』





 いやぁぁぁぁーーーーーーー!!!!





















 明日香が真嗣に平手打ちを加える。
 頬を押さえる真嗣と、走り去る明日香。
 予想外の展開に驚く、光、冬二、健介。

「碇君!追っかけて!」
 最初に我に帰ったのは光だった。
 その声にほかの3人も我に帰る。
「う、うん」
「いや、今はやめといたほうが良いな」
「どうしてよっ、明日香、泣いてたのよ」
 親友のことを思う、光。
 だが、健介は感情を押さえた声で言った。
「今行っても事態を悪くするだけさ……
 真嗣には俺達から言っとくから、委員長は明日香をフォローしてやってくれ」
 ベンチの上に置き去りになっている明日香のかばんを指す。
 光は一瞬、躊躇した後、うなずいて明日香のかばんをつかむ。
「そんなに遠くには行ってないと思う」
「うん」
 健介の言葉を受けて、光は明日香の走っていった方向へとかけていった。





 光が視界から消えると、健介は真嗣の前に立った。
「真嗣、どうして惣流がおまえを殴ったかわかるか?」
「……わからないよ……」
 真嗣の視線が地面をさまよう。
「解ろうとしてないだけやろ!」
「冬二」
 健介が激昂する冬二を押さえる。
「ともかく、これは真嗣と惣流の問題だ、俺達がとやかく言うべきじゃない。
 真嗣は惣流とは俺達以上に長い付き合いなんだしな。
 俺達の知らない事情もあるだろう。
 でもな、真嗣、おまえが惣流を傷つけるのなら
 俺はおまえを軽蔑する。」
 そう言って、立ち去ろうとする。
「行こうぜ、冬二」
「お……おう」





 明日香を探していた光は、意外に早く彼女を見つけることができた。
 公園の噴水の脇に立って、噴き上がる水を見つめている。
「明日香?」
 反応は無い。
「あの……かばん……」
 やはり反応の無い明日香に、光は何か慰めの言葉を捜そうとする。
「い、碇君だって、明日香のことが嫌いだって言ったわけじゃないし……」
「違う!違うのよ……」
「ごめんね、光。あたし、もう帰るね……」






『真嗣、どうして惣流がおまえを殴ったかわかるか?』
『解ろうとしてないだけやろ!』

 解らないよ……
 口に出して言ってくれないのに……
 解れって言われても、無理だよ。




「おや、真嗣君じゃないか」
「加持先生……冬月先生も」

 商店街をうつむいて歩いていた真嗣に声をかけたのは
 真嗣たちの高校の社会科の加持と生物科の冬月だった。
「どうした、やけに落ち込んでるじゃないか」
「ちょっと……」
「悩んでる生徒をそのままにしてはおけないな。
 冬月先生、どこか喫茶店でも入りますか?」
「私は構いませんよ」
「真嗣君。時間はあるかい?」
「はい」
「じゃ、行こうか。この近くにいい雰囲気のところがあるんだ」

 加持と冬月の後をついて真嗣が入った店は商店街から少し外れたところにあった。
 ”echoes”という、その喫茶店には店長らしき髭面の男とバイト風の青年が二人いた。
 先客は二人、どちらも真嗣より少し年上の女の子で、カウンターに座って店員の二人と話しこんでいる。
 真嗣はその二人に見覚えがあるような気がした。

「それで、どうしたんだ?」
 頼んだもの(加持と真嗣はコーヒー、冬月はミルクティーだった)が届いて、一息入れてから、加持が尋ねる。
 真嗣は今日の出来事を順を追って話した。
 そもそものきっかけであるくじの辺りでは苦笑していた加持もだんだん真剣な表情になる。
「……でも、解れって言われても解らないんです。
 明日香がどう思ってるかとか、口に出して言ってくれないのに」
 その言葉で真嗣の話は終わった。

 ちょっと考えた後、加持が尋ねる。
「そうか、ところで真嗣君は明日香ちゃんと長い付き合いなんだろ?」
「はい、父と母がなくなった後、僕は一人になってしまった。そう思って他人を拒んでいました。
 その時、ずっと落ち込んでいた僕に声をかけて、励ましてくれたのが明日香だったんです。」
「それで……今はどうなのかね?今でも一人だと思うのかね?」
 今まで沈黙を保っていた冬月が尋ねた。
「もう、そんなに気にしていません。
 母さんと父さんがいなくなったのは事実だし、
 明日香があそこにいた僕を助けてくれたから。」
「そうか。それを聞けば碇の奴も安心するだろう。」
「父さんを知っているんですか?」
「ああ、大学の研究室で一緒だったのだよ、私と碇と唯君はね
 そして、あの事故が起きた。それからすぐに私は研究をやめて、教師になった」
「そうだったんですか……」

「それで、真嗣君、君は明日香ちゃんのことをどう思ってるんだい?」
「解らないんです。冬二や健介は恋愛だとか、いろいろ言うけど、僕にはそう言うことが解らないんです」
「でも、明日香ちゃんのことが嫌いではないだろ?」
「はい。でも……」
「でも、真嗣君が明日香ちゃんが恋愛対象として好きなのか、それとも友達としてなのか、それは解らない、と」
「……はい」
「じゃ、そう思ってることを、そのまま明日香ちゃんに伝えるんだな
 さっき、君は『口に出して言ってくれないのに』って言ったじゃないか
 言わなきゃ解らないのは誰だって同じ、他人は結局他人なんだからな。
 でも、相手の気持ちが解らなくても、自分の気持ちを伝えることはできるだろう?
 べつにかっこいいことを言う必要は無いんだ。自分の気持ちを正直にそのままにね」
「でも、聞いてくれるでしょうか?」
「聞かせるんだよ、無理やりね。
 男の腕力なんて、そのためにあるようなもんだ」
 そういって加持は笑って見せた。

 二人に礼を言って、席を立つ真嗣。
 加持と冬月は、加持が育てているスイカの話があるとかで、まだ喫茶店にいるらしい。
 最後に冬月が声をかけた。
「真嗣君。」
「はい」
「安心しなさい、きっとうまく行くよ」
「はい」






 伝えよう。
 今の僕の気持ちを、そのままに。
 それしかないんだ。

 そして僕は明日香の家のドアの前に立った。

 
 僕は明日香の家の前に立つ。
 ドアをあける。鍵が掛かってないという事は、明日香が居るということだろう。
 明日香以外のこの家の構成員は、みな帰りが遅くて、こんな早い時間から家に居ることは無い。

 案の定、玄関には明日香の靴が脱ぎ散らされている。
「明日香〜、入るよ〜」
 極力明るい声で、声をかける。
 そして、散らかっている靴をそろえて、明日香の部屋へと向かう。

「明日香、入るよ」
 部屋の中で、明日香はベッドに突っ伏していた。
「明日香、伝えなきゃいけない事があるんだ。」
「いやっ、言わないで!聞きたくない」
 そう言って、手で耳をふさいで首を振る。

 そんな明日香を、僕は背中から抱きしめた。
「なにすんのよ。離しなさいよ」
 いっそう暴れる。
「離さないよ」
 力をこめて抱きしめると、明日香は次第におとなしくなった。
 そうして僕の腕の中に収まってしまう明日香は、いつもの強気で意地っ張りな彼女ではなかった。
「明日香、これだけは聞いて欲しいんだ。
 だから、僕の話を最後まで聞いてよ……」
 明日香が小さく頷く。
 そうして僕は、焦る気持ちを押さえて、ゆっくり、穏やかに、誤解を生まないように、話した。

「学校で行ったことは、僕の本心じゃないよ……
 でも、それは明日香が嫌いだとか、何とも思ってないなんてことじゃない。
 僕には、好きだとか、恋愛だとかは、わからない。
 でも、明日香が僕にとって特別なのは確かにわかる。
 あの時、泣いていた僕を助けてくれたのは明日香だから。
 今の僕は、昔の僕じゃない。
 でも、それが維持できてるのは、明日香のおかげなのかもしれない。
 明日香が居てくれないと、駄目なんだ。
 もう、誰かを失うのは嫌なんだ。」

 そこまで言ってから、僕は少し考えた。
 明日香はずっと静かに話を聞いている。

「そう……僕にとって、明日香は家族なのかもしれない。
 ただ一人のね……」

 明日香の体の前に回した僕の腕に涙の雫が落ちる。
「僕の家族でいてよ……これからも、ずっと……」
 小さく、でも確実にうなずいた明日香は、僕の胸に顔を押し付けて泣き始めた。
 僕は、明日香が泣き止むまで、ずっと彼女を抱きしめていた。





 ようやく泣き止んだ明日香は、ごしごしと目をこすると、いつもの調子で言った。
「あんた、浮気したら殺すわよ」
「え?」
「あのねぇ、いくら、恋愛ごとが解らないって言ってても
 家族だなんて、プロポーズにしか聞こえないわよ!」
「あ……そう言うことになるの?」
「ったくぅ」

 プロポーズ……なのかな?
 でも、明日香は断ったわけじゃないよね……










04話、ようやく終結です。
途中でどんどん設定も構想も変わっていきました。
結局、真嗣を「えいえん」の世界に送り込むことはできなかったし……
自分ではONE的なものを含ませることができたと思ってるんですけどね。
時間を見つけて、04話を再構成するつもりではいます。

今回、キスシーン、あるいはそれ以上が無いのは意図的です。
「背中から抱きしめる」の図にこだわりがあったもので……(笑)

次回からは、綾波茜編に入ります。
基本的に04話の続きなので、LRSになるわけではありません。
この連載では、恋愛だけでない「絆」を重視したいので。



%改訂版について
5分割になってたのをまとめて、全体の整合性を整えてみようと……
が、あまりの支離滅裂さに挫折……
本来なら、場面の変換(旧版でパートの切れ目だった所)も書き換えなければならないのだけど
横線を入れることですませてしまってます

途中で設定を加えすぎるんだよなぁ
近いうちに人物設定を確定しますんで、それまで05以降はお待ちください。



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