えばでONE

04E
C.F (c.f@ijk.com)


 僕は明日香の家の前に立つ。
 ドアをあける。鍵が掛かってないという事は、明日香が居るということだろう。
 明日香以外のこの家の構成員は、みな帰りが遅くて、こんな早い時間から家に居ることは無い。

 案の定、玄関には明日香の靴が脱ぎ散らされている。
「明日香~、入るよ~」
 極力明るい声で、声をかける。
 そして、散らかっている靴をそろえて、明日香の部屋へと向かう。

「明日香、入るよ」
 部屋の中で、明日香はベッドに突っ伏していた。
「明日香、伝えなきゃいけない事があるんだ。」
「いやっ、言わないで!聞きたくない」
 そう言って、手で耳をふさいで首を振る。

 そんな明日香を、僕は背中から抱きしめた。
「なにすんのよ。離しなさいよ」
 いっそう暴れる。
「離さないよ」
 力をこめて抱きしめると、明日香は次第におとなしくなった。
 そうして僕の腕の中に収まってしまう明日香は、いつもの強気で意地っ張りな彼女ではなかった。
「明日香、これだけは聞いて欲しいんだ。
 だから、僕の話を最後まで聞いてよ……」
 明日香が小さく頷く。
 そうして僕は、焦る気持ちを押さえて、ゆっくり、穏やかに、誤解を生まないように、話した。

「学校で行ったことは、僕の本心じゃないよ……
 でも、それは明日香が嫌いだとか、何とも思ってないなんてことじゃない。
 僕には、好きだとか、恋愛だとかは、わからない。
 でも、明日香が僕にとって特別なのは確かにわかる。
 あの時、泣いていた僕を助けてくれたのは明日香だから。
 今の僕は、昔の僕じゃない。
 でも、それが維持できてるのは、明日香のおかげなのかもしれない。
 明日香が居てくれないと、駄目なんだ。
 もう、誰かを失うのは嫌なんだ。」

 そこまで言ってから、僕は少し考えた。
 明日香はずっと静かに話を聞いている。

「そう……僕にとって、明日香は家族なのかもしれない。
 ただ一人のね……」

 明日香の体の前に回した僕の腕に涙の雫が落ちる。
「僕の家族でいてよ……これからも、ずっと……」
 小さく、でも確実にうなずいた明日香は、僕の胸に顔を押し付けて泣き始めた。
 僕は、明日香が泣き止むまで、ずっと彼女を抱きしめていた。





 ようやく泣き止んだ明日香は、ごしごしと目をこすると、いつもの調子で言った。
「あんた、浮気したら殺すわよ」
「え?」
「あのねぇ、いくら、恋愛ごとが解らないって言ってても
 家族だなんて、プロポーズにしか聞こえないわよ!」
「あ……そう言うことになるの?」
「ったくぅ」

 プロポーズ……なのかな?
 でも、明日香は断ったわけじゃないよね……







04話、ようやく終結です。
途中でどんどん設定も構想も変わっていきました。
結局、真嗣を「えいえん」の世界に送り込むことはできなかったし……
自分ではONE的なものを含ませることができたと思ってるんですけどね。
時間を見つけて、04話を再構成するつもりではいます。

今回、キスシーン、あるいはそれ以上が無いのは意図的です。
「背中から抱きしめる」の図にこだわりがあったもので……(笑)



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