どうしてなんですか。
ぼくはカムパネルラといっしょにまっすぐ行こうと言ったんです。
ONEからさめない
#15 繭の話
留美とは結局会えないまま、私は動物園の植え込みの一つに隠れて、その代わりに、繭、と名乗った少し訳の分からない女の子の話を聞いた。
建物にもたれ掛かって見上げた空では、だいだい色が紺色に駆逐されようとしていた。
ただ黙って、時間まで待っているのに耐えられなかったのだろう。彼女から、ぽつり、ぽつりと口を開いた。
繭が「折原浩平」と会ったこと、「氷上シュン」と会ったこと。
それと、そのきっかけとなった彼女にとっての大事件。
その話を分かりやすくまとめると、大体、以下の通りになる。
これは、繭の物語だ。
小学校6年生のときのことだから、もう3年も前のことだ。
3学期の終わりのお楽しみ会の劇の練習で、その日学校を出たのは6時過ぎで、もう真っ暗になってしまった帰り道を、わたしは、同じ班で幼稚園のころからのお友達のゆうなちゃんと一緒に歩いていた。
別れるときに、ほんばん、がんばろーね、と、手をふりながらゆうなちゃんが言ったのは、はっきりと覚えている。
だって、それが「さいご」だったから。
特別な音は聞こえなかった。
テレビやまんがであるような、ききーっとか、どんっ、とか、そういう大きな音はしなかった。
ただ、大きなトラックに飲み込まれるように、ゆうなちゃんは、消えた。
いつもシャンプーのいい匂いがしていた長くて綺麗な髪も、聞いているだけで楽しい気分になれるような可愛い声も、何も、全部いっぺんに消えてしまった。
わたしはただ立ち尽くして、街灯の白い光の中に浮かぶ、道路の上の赤い広がりを見つめていた。
そしてその間に、わたしの中で、何かが壊れてしまった。
わたしの世界が、壊れてしまった。
そしてわたしは、世界を拒んだ。
学校にも行かなくなって、お父さんとも、あたらしくやってきたお母さんともあまり話をしないで。
ただ、新しいお母さんが、あきらめたのか何も言わなくなってから少しして買ってきてくれた、みゅーだけが生きている存在で。
そのみゅーも動かなくなってしまって、ひとりぼっちになってしまったわたしに手を伸ばしてくれたのが、浩平とみずかだった。
ふたりのおかげで学校にまた行けるようになって、みあちゃんと会って。
シュンにも会って。
でも。
ノートがうちに送られてくるまで、わたしは浩平のことを忘れていた。
思い出してから色々な人に浩平のことを聞いてみたけれど、シュン以外は誰も覚えていなかった。
みずかも、何も覚えていなかった。
どうして浩平のことを忘れてしまったのか、よくわからない。
あんなに大事な人なのに。
どうしてみんなも忘れてしまったのか、全然わからない。
それだけじゃなくて。
浩平がいない。どこにも、いない。
ゆうなちゃんやみゅーみたいないないじゃなくて、なにか、全然違う「いない」。
シュンはわたしにたくさんの言葉を教えてくれた。
ノートを読んで、何をしなければいけないか、教えてくれた。
だから、わたしはここに。
動物達を解放することが浩平の望みだったのなら、そうしてあげなければいけない。
だって、浩平はわたしを助けてくれたんだから。
つづく
<言い訳>
制作、ひどく遅れてます。
主に教習所とゲーム(おい)のせいです。
ちなみにゲームのタイトルはアドバンスド大戦略(笑)
38(t)戦車や三号戦車で日夜ドイツの敵と戦ってるわけです。
今後、PS版のTo Heartの影響なども出てくるかもしれません。
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