新春うぐぅ

by いたちん(faw@orange.ocn.ne.jp


 新年、祐一は水瀬家のこたつで年越しを迎えた。
 考え得る、一番無難な年越しだった。
「じゃ、俺寝ますので」
 1時を回った頃、もうおもしろいテレビ番組もないことを確認した祐一がこたつを出る。
「あら、寝るんですか。初詣はどうするんです?」
 秋子さんがそう訪ねる。
 祐一は名雪と初詣に行く約束をしていた。
 去年のうちに出かけて外で新年を迎える予定だった。
 ……のだが、祐一は水瀬家にいた。
 理由は……いわずもがな。
「……くー」
 こたつで寝息をたてていた。
 祐一も名雪と約束したときに予想していたので、落ち着いていた。
「名雪が起きてから行きますよ」
「そうですね、それがいいですね」
 秋子さんは片づけを始める。
 それじゃ、と言って祐一は自分の部屋へ戻った。



 部屋はエアコンがないので寒かった。
 祐一はすぐさまベッドに潜り込む。
 目覚ましをかけ忘れた事に気づいたが、いつも通りに起きる必要もないのでそのまま寝始めた。
 ……それからしばらくして……
 コンコン……
 祐一の部屋の窓を叩く音があった。
「……ん?」
 祐一はその音に気づいた。
 ベッドに入ったまま、耳を澄ます。
 今のは気のせいかもしれない、と。
 コンコン……
 今度ははっきりと聞いた。
 ここが2階であることを思い出す。
 祐一は恐る恐る布団をかぶったまま体を起こした。
 窓に手を伸ばそうとしたとき……
 ドサッドサドサドサ……
 雪が落ちる大きな音。
 2階の屋根の雪が落ちてきたようだ。
 祐一の部屋の隣……1階の屋根の上に。
 そして、窓を叩く音はしなくなった。
 祐一は寝ぼけた頭で『ま、いいか』考えて再び寝始めた。



「朝〜、朝だよ〜」
 おや、目覚ましとめたはずなのに……と思いつつ布団から出る祐一。
 そこには本物の名雪がいた。
「はつもうでいくよ〜」
 時計を見るともう昼だった。
 なるほど、名雪が起きていてもおかしくない。
「とりあえず、飯な」
「うん。お雑煮でいいよね?」
「ああ、もちは3つな」
 名雪は部屋を出てキッチンへ行く。
 祐一も着替えてから向かった。



 こたつでお雑煮。
 普通の正月だ。
 外から太陽の光がさし込んでくる。
 いい天気だった。
 積もっていた雪も溶け始めてきている。
 寒がりの祐一にとっては外に出るのがあまり苦にならない天気だった。
 お雑煮を食べ終わってから祐一は名雪に、そろそろ行くかと声をかけた。
 その時、ドサドサドサッと屋根から雪が庭に落ちてきた。
 ……
 祐一にはなにかが引っかかった。
 じっと、落ちてきた雪の方を見つめる。
 ……
「どうしたの?」
「いや……何かを忘れてるような……」
 そこで祐一は昨夜の事を思い出した。
 そして、落ちてきた雪の上の屋根は祐一の部屋の前だった。
「名雪……」
「なに?」
「シャベル……持ってきてくれないか」
 祐一は雪をじっと見つめながら言う。
 名雪は祐一の視線の先を見て考えた。
「雪だるまつくるんだ」
「ちがう、発掘だ」
 祐一は玄関に回って靴を履く。
 そして、落ちてきた雪の現場へ。
 後ろから名雪がシャベルを持って追いかけてきた。
 それを受け取って雪を掘り始める祐一。
「なにがあるの?」
「うぐぅ」
「うぐぅ?」
 やがて、シャベルで掘った先に、白い羽が見えた。



「ックシュン!!」
「いや、無事でよかった」
「うぐぅ……」
 予想通り、そこからあゆが出てきた。
 もうダッフルコートも、セーターもびしょぬれだ。
「お風呂でも沸かしますね」
 秋子さんがそういって、風呂場へ向かう。
「あゆちゃん、あんな所で寝てたら死ぬよ」
「寝たくて寝たんじゃないよ……ックシュン!!」
 風邪も引いたみたいだ。
 まぁ、一晩雪の中だったから無理もない。
「俺が気づかなかったらどうなってたか。とにかく助かってよかったじゃないか」
「普通なら死んでるよっ!!」
「なら、あゆは普通じゃないんだな」
「え……うぐ……普通だよ。祐一君が昨日気づいてくれればよかったんだよ」
 あゆはそう言ってるが……マジで普通なら助からない。
「あゆちゃん。お風呂出ましたよ」
「うん」
 呼びに来た秋子さんに連れられて風呂に行くあゆ。
 祐一は昨夜の事を名雪に説明した。
「それは祐一が悪いよ」
「なんでそうなるっ。名雪だって寝てる時にあんなことがあったら……」
 祐一は想像した。
 ……
「……起きるわけないよな」



 しばらくして、あゆが風呂からあがってきた。
 名雪の服(動物柄)を着ているがちょっと大きい。
「お、ゆであゆがでてきた」
「ゆであゆじゃないもんっ」
 あゆはそう言いながらこたつに入る。
「ちょっと服が大きかったみたいだね……」
 あゆを見て名雪の声にあゆがすねた。
「うぐぅ……どうせボクは小さいもん」
「ってことは、下着なんかは全然会わないんだろうな」
「祐一、それいっちゃ可哀想だよ」
 名雪が俺にそんな事を言うが逆効果だ。
 あゆはますます落ち込んだ。
「うぐ……大きいからつけてないもん」
(ってことは……今あゆは……)
 「祐一君、目が怖い……」
 あゆはそういいながら胸のところを手で隠す。
「祐一……」
 名雪も軽蔑の目で祐一を見ていた。
「そ、それで、なんであゆは夜に俺の部屋に来たんだ?」
 話をそらすために祐一は最初の疑問を聞いてみる。
 そもそもそれが一番の原因だ。
「祐一君と初詣に行こうと思ったんだよ……」
 それがなぜ、玄関からではなく2階の部屋に直接入る理由になるのか祐一には分からなかった。
「そういえば、初詣に行こうとしていたところだったよ」
 名雪が思いだした。
 祐一も名雪も、あゆ発掘ですっかり忘れていた。
「そうだな、行くか」
「初詣……いくの?」
「ああ、あゆは留守番な」
「……うぐぅ」
 ボクも行きたい……と言いたいあゆだったが、風邪引いた状態でしかもこのだぼだぼの服では無理だった。
 部屋を出ていくとき、祐一はもう一度あゆを見た。
 あゆは本当に残念そうにしている。
 仕方がないのであゆの機嫌を直すいつもの一言。
「たいやき買ってきてやるからな」
「うん……約束だよ……」
 それでもあゆは寂しそうだった。







あとがき〜


落ちがなかなか思いつかなかったです。
とにかく「雪と一緒にあゆが落ちてくる」というネタが使いたかったんです(笑)



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