ウラHM
・チューリングテストの持つ問題
- 「ある質問に対する人間と機械の返答の区別がつかないなら、機械は考えているとみなして良い」
- 危険な解釈の可能性を持つ
- 中に入ってるのが文化を異にする人間だった場合、観察者は人間とはみなさないだろう
- 観察者に付いて何らの考察も加えていない場合に発生する問題点
- しかし、人間に関しても「考えている」と言う内的状態から返答が生み出されるわけではない
- 返答から「考えている」と言う内的状態が仮想される
・心を持つロボット
- そもそも、あるもの(人間でもロボットでも人工無能でも)が心を持つとされるのはどのような状況だろうか。
- たとえば、役所の窓口での対応が官僚的に過ぎるとき、我々はそこに心を感じない。一方、そのような場でひどく居丈高な態度を受けたとき、彼の行動に疑問は抱くけれども、彼の心は確証される。
- プログラムされた、マニュアル化された返答を返すとき、そこに心は認められない。
- 意外性・他者性・理解不可能性を感じたとき、他者が心を持つと感じる。
・「私」の心について
- 自分に心があることは一般に自明とされている。
- しかし、自分に他者性を認めることが出来ようか。
- 主体である自分に対しての問いかけは、自己内部での主格分離を引き起こす。
- 霊肉分離思想にも似たこの状態はナンセンスである。
- 自己が心を「持つ」のであれば、その関係の中の主体は何者か?
- これは結局、無限退行を引き起こすだけ(第3人間論を想起せよ)。
- 自己に関しては自己の論理で完結し得るのであり、その限りにおいて自己に心はない(自己は心を所有する主体ではない)。
- 『私』に心があることが重要なのではない。
- 『君』に心があるかが重要。
・恋愛について
- 恋愛は他者に対して行われる。
- 自己の論理で恋愛対象を規定しているとき、それは恋愛とは呼ばれない。
- 恋愛対象は他者として現れる。
- その限りにおいてTHのマルチシナリオは恋愛だと言うことが出来るだろう。
- THに例を求めるならば、あかりシナリオは主人公があかりに彼の論理を押しつけることがシナリオ中の核をなしている(この事はONEの長森シナリオにより一層強く現れる)。
・マルチシナリオの二重性
- マルチシナリオにおいてプレイヤーは機械(PC)に映し出された機械(マルチ)との恋を見る。
- SSなどで良く見られる「機械に恋をして」と言った言葉はプレイヤーへの皮肉でもある。
・自己決定
- 人間の自己決定権を所有関係にたとえて、『私のもの』は私が自由に出来るとする。
- しかし、所有するものと所有されるものとの分別が既に実態的でない。私の身体の外部に私が存在すると言う霊肉分離思想。
- ともあれ、世界の二分法として「所有し、所有されない」人間と「所有せず、所有される」モノがある。
- この事は「人権を持ち人格を尊重される人間と人の所有物である物」と言った概念と重なるものである。
- 人間が自己決定権を持つことは、何者にも所有されない(支配されない)事を示し、それは基本的人権にって担保される。
- 雇用関係においても、雇用関係が潜在的に持つ支配的な構造から自己決定権を保つため、労働者に関する権利が特別に存在する。
注:雇用と奴隷
奴隷状態とは雇用関係が所有関係に拡大した状態を示す。
・HMと商行為
- 商行為の主体としてのHMは可能か?
- 可能な選択肢としては、持ち主が責任を持つ、一定限度の責任能力をHMに認める、人間と同等の責任能力を認める、の3つが想定される。
- 持ち主が責任を持つ場合
- ミスをしないことを要求すれば柔軟性が失われる
- 持ち主に損害を与えるような判断を繰り返すなら、使い物にならない
- 例えば、人間の労働者が妥当でない判断の結果、雇用者に損害を与えた場合、自分の財産から弁済する。しかし、この場合のHMには責任能力はない以上、財産なども持ち得ない。もちろん、保険なりPL法なりがそれの保証となりうるだろうが。
- 一定限度の責任能力を認める場合
- 売り手から信用されない
- 禁治産者は事実上、責任能力皆無として扱われる
- 人間同様の責任能力を認める場合
- 人間の労働者と同等の待遇を受ける
- 後述するような種々の社会問題をより一層強く引き起こす
・HMと労働問題
- HMが導入されることで労働環境が激変する
- ケインズの指摘する下方硬直性を例に取る
- 下方硬直性は端的に言ってしまえば「極めて安い給料では労働力は全く供給されない」と言うこと
- これは人間を維持するコストには下限があると言うことを示す
- HMは維持コストが人間に比べて極端に低い
- HMの登場は賃金が低い労働者だけでなく、賃金が高い労働者にも影響を与える。
注:英国産業革命期の児童労働者の例
成年労働者に比べ、より安い賃金でも働く児童労働者は下方硬直性を崩す存在である。児童労働者の登場は下方硬直性を崩すと共に労働力の供給曲線全体をも引き下げた。
参考文献
・チューリングテスト
柄谷行人 探求1 講談社学術文庫
・心を持つロボット
加藤尚武 現代倫理学入門 講談社学術文庫
・自己決定権
加藤尚武 現代倫理学入門 講談社学術文庫
Special Thanks(敬称略)
くわね氏
風見俊次氏
涼氏
雪駄氏
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