時計

Happy Birth Day! Asuka!
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 授業中。
 問題演習の時間、僕は数学の問題が解けずに、計算用紙の上で数式をあれこれと変形していた。
 どう変形してみても、今までに見た事のある形にならない。
 はぁ、もう一回最初からやってみるか…。
 視線を計算用紙から上げて、教室の中を見回す。
 シャーペンで頭を掻きながら考えてる明日香が目に入る。
 ふーん、明日香でも解けない問題があるんだ…

 再び机に向かって、最初から解き直してみる。
 ふと、机の上に置かれた腕時計に目をやる。
 後20分、ちょうど1問解き終わるぐらいの時間だった。
 あ……
 青をベースカラーにした時計。
 そのかたすみに表示された日付に気がついた。
 12月3日。
 そうか、明日か……





 次の日の朝。
 僕は明日香を起こしに部屋に入っていった。
 いつもはそのまま明日香を起こしにかかるのだが、今日はまず机の方に向かう。
 そうして、机の上に小さなケースを置いた。

 ゆさゆさ
「ほらっ、おきなよ、明日香」
「ん……今日は有給つかうわ……」
「ないよっ、そんなの」
「なによー、お茶目な冗談じゃない」
 そう言って明日香が起き上がる。
 ばっちり目が覚めたみたいだ。
「はぁ……起きてるんなら、着替えて降りてきてよ。
 僕、下で朝御飯の準備してるから……」

 机の上のものに気付かれると恥ずかしいので、さっさと部屋を出て、階段を降りた。
 机の上に置いたプレゼントの品物は腕時計。
 半年前までは僕の青い時計と共に、いつも通る道の時計屋に並べられていた。
 ペアウォッチではなかったし、そもそもブランドもデザインも違うその2つの時計は
 しかし、妙な一体感をショーウィンドーの中で放っていた、

 それを2人で見た日から1週間ほど経った僕の誕生日、明日香はいつもの口調で
『ほら、誕生日プレゼント』
『ちゃんとあたしの誕生日にお返しをするのよ』
 と言いながら、青い時計をくれた。
 その時はまだ、もう一つの赤い時計は時計屋のショーウィンドーに並べられていた。
 でも、それから何日かした後、赤い時計はショーウィンドーから消えた。
 それをみた明日香が一瞬とても悲しそうな顔をしたのを僕は知っている。





 台所でコーヒーをいれていると、ものすごい音を立てながら明日香が階段を駆け降りてきた。
「真嗣っ、この時計……」
 箱の中を確認してすぐに降りてきたのだろう。
 制服を着てはいるが、髪は起きた時のままだ。
「あ、明日香、誕生日プレゼント、気に入ってくれた?」
「うん……でも、この時計、あの時のじゃないんでしょ」
「あの時のだよ」
「え?」
「ほら、あの時、誕生日にお返しって明日香が言っただろ。
 だから、売れちゃわないようにすぐに買っておいたんだ。」
「そうだったの……誰かに買われちゃったかと思ってたけど……」
「うん、明日香が悲しそうにしてたの知ってたけど、驚かせないとね、こういうのは」
「馬鹿……でも今回は許してあげるわ、結局、あたしのになったんだし」
 あ、重要な事がまだ残ってたな
「いつも」の朝の雰囲気では恥ずかしくて出来ないけど。
 僕は明日香の正面に立って言った。
「誕生日おめでとう、明日香」
「ありがと……」

 全く違う2つでも調和して輝ける事をこの時計は教えてくれたんだ。
 僕は僕、明日香は明日香でうまくやって行けるよね……







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