えばでONE
03
定期試験最終日
日ごろの努力で乗り切る者がいる。
生来の才能でやってのける者もいる。
鉛筆転がし占いに頼る者すらいる。
最初から投げている者だっていない事はない。
真嗣はどれにも当てはまらなかった。
すなわち、たいして試験対策をしたわけでもないのに
生真面目に問題に取り組むタイプである。
今、彼を悩ませているのは、連続40問の○×問題。
ちなみに教科は社会、担当教師は葛城美里と言った。
冷静に考えれば、1問1点な事も、ランダムでも20点は取れる事も
わかろうものであるのに、一進一退。
彼の優柔不断な性格が表れている。
(『羽田政権の後、自民・社民・さきがけの3党連立による村山政権が誕生した』
○……だよね。
昨日アスカとやった所だし)
×である(多分)。
それはともかく、中学以来の伝統として、定期試験の時には明日香にみてもらっている。
そうでもしないと、真嗣が補習に引っかかるからだが
一方で、物分かりのいい方ではない真嗣に教える事は
明日香にとってもちょうど良い復習なのであった。
ちなみに、真嗣は透明なテーブル板の下に見える、明日香の太股に気が行ったりはしない。
鈍感だから。
(『理科の赤木律子女史の金髪は染めたものである』
……これって、本当に社会のテストなのかな?)
問題は更に続く。
真嗣の苦労はまだまだ続く。
その頃、アスカはとっくに問題を解き終えて熟睡モードに入っていた……
「では、そこまで」
試験監督のその声が、定期試験の終了を宣言する。
教室の各地で歓声が巻き起こる。
今やった試験の答えあわせをする者。
放課後の相談をし始める者。
万歳三唱を始める一群すらある。
「センセ、どうやった?」
隣の席から声をかけたのは、鈴原冬二。
偽関西弁を操る、黒ジャージ男。
中学以来の真嗣の友人だった。
「ん?まぁまぁかな?」
「わしはさっぱりだったわ。
それにしても、ええのぉ、なんやかんやゆーても
惣流の奴が教えてくれるんやろ」
「ははは……」
乾いた笑いを返す真嗣。
口よりも先に手が出るタイプの明日香は極め付けのスパルタ教育であった。
「ところで、健介は?」
姿が見当たらない、もう一人の友人・相田健介の事を聞く。
「なんや、試験終わったらすぐに、国連の空母が来とるゆーて……」
「横須賀に行ったの?」
「厚木に行ったわ」
「……」
「センセは暇なんか?
ほな、ゲーセンにでも……」
真嗣が冬二と教室を出ていこうとした時……
「ちょっと、真嗣。
あんた、昨日、あたしにクレープ奢るって約束したじゃないの?」
突然、二人の後ろから声をかけたのは、言うまでもなく明日香である。
「えっ?そ、そうだっけ?」
「そうよ!あんた、誰のおかげで試験が乗り切れたと思ってるの?」
「それは明日香のおかげだけど……」
困惑している様子の真嗣。
「だったら、感謝を込めて、あたしにクレープぐらい奢りなさいよ」
明日香が一気にたたみ掛ける。
「でも……そんな約束してないし……」
「あんたねぇ、こんな美少女と食事が出来るってーのに
なによ、その反応は」
いつもの構図である。
そこへ、若干うんざりした顔付きをした冬二が救いの手を入れる。
「ほんま、飽きんやっちゃのう。
ほな、わしはええから、惣流と一緒にいったれや」
「あんた、たまにはいい事言うわね……
じゃ、真嗣、いくわよっ」
「うん……じゃぁ、また明日」
その言葉を言い終わらないうちに、明日香は真嗣の手をつかんで歩き出す。
「ほんま、あれで、いいコンビやから……
わしにも、あーゆーのでもおれば……」
毎日のように見せ付けられているのであった。
と、そんな冬二にある少女が話し掛ける
「……あの……鈴原?」
「何や……いいんちょ?」
そう言う事であったらしい。
30分後
お気に入りのクレープ屋でお目当てのクレープを無事に買い求め
(うう、今月も赤字かなぁ)
もちろん、真嗣は無題使いをする性格などではない
そんな彼が、5ヶ月連続の赤字に苦しんでいるのは
明日香が、何かにつけて奢らせたり、遊びに付き合わせたりするからだ。
それはともかく、クレープをかじりながら、商店街を歩く2人。
と、進行方向左側にペットショップが現れる。
例によってショーウィンドウではいろいろな小動物が愛想を振り撒いている。
「ねぇ、真嗣、あの猫かわいいよ」
「どれ?」
「その一番右側の仔」
明日香が指差した籠を真嗣が覗き込む
ぱくっ
「あれ?明日香、僕のクレープ食べたでしょ?」
「あんたねぇ、そんな意地汚いことするわけないでしょ」
「気のせいかなぁ」
さっぱり気のせいではないのだが……
「このフェレットもかわいいよぉ」
「そうだね」
と、いいつつも、フェレットではなくて明日香を見ている。
(ほんと、こういう時ばっかりなら良いのに
なんで、いつもは怒ってばっかりなんだろ?)
ぱくっ
「あっ、また僕のクレープ食べたでしょ?」
「だから、食べてないって」
「でも、僕、紙まで食べたりしないよ」
「え゛?」
ぺっぺっ
慌てて、紙を出す明日香であった。
「あ、ペンギンだ」
真嗣が指差した先には”PEN2”と言うネームプレートをつけたペンギンが1匹。
籠、と言うよりは棲み家の中を大儀そうに歩いたかと思うと、すぐに横になって寝てしまう。
「ペンギン?そんなのまでいるの?」
「うん、なんか品種改良されたので温泉ペンギンって言うらしいよ。
結構、頭もいいらしいし」
「ふーん、あんたも良くわかんない事に詳しいのね」
納得している明日香。その姿を見た真嗣は……
(すきありぃ)
ぱくっ
「あっ、あたしの食べたでしょう?」
「明日香だって、僕の食べたじゃないか」
とぼけるのが定石であるのに、素直に認めてしまう。
明日香の言葉に反応して、すぐに言い訳してしまうのは彼の性か。
「ま、いいわ」
「えっ?」
自分のクレープを奪われるぐらいは覚悟していたので
明日香の意外な態度に拍子抜けする。
「もう一回買いにいけばいいもんね
今日は真嗣のおごりだし」
がーん
哀れ、真嗣は6ヶ月連続の赤字を計上する事になった。
試験終了と共に万歳三唱
やりましたね、昔
今じゃさすがに出来ないなぁ
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