えばでONE

04B
C.F (c.f@ijk.com)


 本日のメインイベント(鈴原冬二氏談)から1時間ほど経って、真嗣と冬二、健介は
 ゲーセンへのショートカットコースでもある公園を歩いていた。
「もう、あんな事するから明日香が怒っちゃったじゃないか
 明日香の機嫌を直してもらうのって大変なんだよ」
「ま、それもくじの一部なんやから、がんばりや」
 にやりと笑ってはいるが、いたって能天気な声で冬二が言う。
「おまえら……気づいてないのか?」
「え?なんのこと?」「何のことや?」
「はぁ…」
(委員長も惣流も苦労するよなぁ)
 もてるわけではないのに、心の機微には聡い男、健介。
 つらい役回りであった。





「……いいの?」
 山葉堂でお目当ての激甘ワッフルを買い、同じ公園で食べていた2人。
 明日香は教室で真嗣をどなりつけて以来、ほとんど声を発していない。
 当初の怒気も廊下を歩くにつれ薄れ、学校の門を出るころにはうつむいて光の隣を歩いていた。
 藤棚の下のベンチに座っている今も、視線は地面の一点にとどまったまま。
 時折思い出したようにワッフルを食べる。
「碇君のこと、好きなんでしょ?」
 ワッフルを食べようとした手が止まる。
 しばらく固まった後、今まで以上に下を向いて、
「あんなの信用できるわけないじゃない!!
 どうせ相田とか鈴原とかが真嗣に遊びで言わせたのよ
 こんな乱暴でがさつなあたしなんて真嗣が好きになるわけないわよ
 今までだって、幼馴染だから付き合ってるだけなのよ……
 最初はいつもの口調だったのが、どんどん小声で弱気になっていく。
(明日香っていつもは自信過剰なぐらいなんだけど
 こういう時になると一気に沈んじゃうのね……)
「そんなことな……」

「お、あそこにいるんはいいんちょと惣流やな。
 いいんちょ~、そこでなにしとるんや~?
『そんなことない、明日香って魅力的だと思うし、碇君だってきっと明日香のことが好きよ』
 というはずだった台詞は、冬二の大声にかき消されてしまった。
 そして、声のした方向に目を向けた光は、そこに彼女の思い人と真嗣、
 それに、やっちまったぁという顔の健介が走ってくるのを見た。





 光と明日香のいる藤棚へ駆け寄ってきた真嗣は、早速、光と世間話をはじめようとする冬二を制して、
 そのまま明日香の座っているベンチの前に立った。
 明日香は真嗣だとは雰囲気からわかるが、顔を上げて真嗣を見ることはできない。
「あの、明日香、さっきのは仕方なくやったことで……その、怒ってたらごめん」
 いつも内罰的と明日香に言われているままの態度の真嗣。
((最悪))
 光と健介はあまりにも予想通りな展開に同じ感想を抱いた。

 明日香は真嗣の言葉にも下を向いたままであった。
 そして、彼女は唇をかみ、こぶしを握り締める。
『もう泣かない』そう決めた自分を何とか守り通そうとする。

 しかし、反応を返さない明日香に真嗣はさらに言ってしまう。
「はは……僕なんかに告白されても迷惑なだけだよね……」
 限界だった。
 次の真嗣のせりふは『大丈夫。そんなことぜんぜん思ってないから』だろう。
 彼女の思いを否定する言葉。
 付き合いの長さがそれを予想させてしまう。
 それは彼女が一番聞きたくないもの。

 ばっしーん
 明日香は立ち上がって、人生最大の威力を持った平手打ちを真嗣に加える。
 その目からは決して流さないと決めていた涙がこぼれていた。
 そして、彼女は逃げ出した。







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