えばでONE

04D
C.F (c.f@ijk.com)


 明日香が真嗣に平手打ちを加える。
 頬を押さえる真嗣と、走り去る明日香。
 予想外の展開に驚く、光、冬二、健介。

「碇君!追っかけて!」
 最初に我に帰ったのは光だった。
 その声にほかの3人も我に帰る。
「う、うん」
「いや、今はやめといたほうが良いな」
「どうしてよっ、明日香、泣いてたのよ」
 親友のことを思う、光。
 だが、健介は感情を押さえた声で言った。
「今行っても事態を悪くするだけさ……
 真嗣には俺達から言っとくから、委員長は明日香をフォローしてやってくれ」
 ベンチの上に置き去りになっている明日香のかばんを指す。
 光は一瞬、躊躇した後、うなずいて明日香のかばんをつかむ。
「そんなに遠くには行ってないと思う」
「うん」
 健介の言葉を受けて、光は明日香の走っていった方向へとかけていった。





 光が視界から消えると、健介は真嗣の前に立った。
「真嗣、どうして惣流がおまえを殴ったかわかるか?」
「……わからないよ……」
 真嗣の視線が地面をさまよう。
「解ろうとしてないだけやろ!」
「冬二」
 健介が激昂する冬二を押さえる。
「ともかく、これは真嗣と惣流の問題だ、俺達がとやかく言うべきじゃない。
 真嗣は惣流とは俺達以上に長い付き合いなんだしな。
 俺達の知らない事情もあるだろう。
 でもな、真嗣、おまえが惣流を傷つけるのなら
 俺はおまえを軽蔑する。」
 そう言って、立ち去ろうとする。
「行こうぜ、冬二」
「お……おう」





 明日香を探していた光は、意外に早く彼女を見つけることができた。
 公園の噴水の脇に立って、噴き上がる水を見つめている。
「明日香?」
 反応は無い。
「あの……かばん……」
 やはり反応の無い明日香に、光は何か慰めの言葉を捜そうとする。
「い、碇君だって、明日香のことが嫌いだって言ったわけじゃないし……」
「違う!違うのよ……」
「ごめんね、光。あたし、もう帰るね……」






『真嗣、どうして惣流がおまえを殴ったかわかるか?』
『解ろうとしてないだけやろ!』

 解らないよ……
 口に出して言ってくれないのに……
 解れって言われても、無理だよ。




「おや、真嗣君じゃないか」
「加持先生……冬月先生も」

 商店街をうつむいて歩いていた真嗣に声をかけたのは
 真嗣たちの高校の社会科の加持と生物科の冬月だった。
「どうした、やけに落ち込んでるじゃないか」
「ちょっと……」
「悩んでる生徒をそのままにしてはおけないな。
 冬月先生、どこか喫茶店でも入りますか?」
「私は構いませんよ」
「真嗣君。時間はあるかい?」
「はい」
「じゃ、行こうか。この近くにいい雰囲気のところがあるんだ」

 加持と冬月の後をついて真嗣が入った店は商店街から少し外れたところにあった。
 ”echoes”という、その喫茶店には店長らしき髭面の男とバイト風の青年が二人いた。
 先客は二人、どちらも真嗣より少し年上の女の子で、カウンターに座って店員の二人と話しこんでいる。
 真嗣はその二人に見覚えがあるような気がした。

「それで、どうしたんだ?」
 頼んだもの(加持と真嗣はコーヒー、冬月はミルクティーだった)が届いて、一息入れてから、加持が尋ねる。
 真嗣は今日の出来事を順を追って話した。
 そもそものきっかけであるくじの辺りでは苦笑していた加持もだんだん真剣な表情になる。
「……でも、解れって言われても解らないんです。
 明日香がどう思ってるかとか、口に出して言ってくれないのに」
 その言葉で真嗣の話は終わった。

 ちょっと考えた後、加持が尋ねる。
「そうか、ところで真嗣君は明日香ちゃんと長い付き合いなんだろ?」
「はい、父と母がなくなった後、僕は一人になってしまった。そう思って他人を拒んでいました。
 その時、ずっと落ち込んでいた僕に声をかけて、励ましてくれたのが明日香だったんです。」
「それで……今はどうなのかね?今でも一人だと思うのかね?」
 今まで沈黙を保っていた冬月が尋ねた。
「もう、そんなに気にしていません。
 母さんと父さんがいなくなったのは事実だし、
 明日香があそこにいた僕を助けてくれたから。」
「そうか。それを聞けば碇の奴も安心するだろう。」
「父さんを知っているんですか?」
「ああ、大学の研究室で一緒だったのだよ、私と碇と唯君はね
 そして、あの事故が起きた。それからすぐに私は研究をやめて、教師になった」
「そうだったんですか……」

「それで、真嗣君、君は明日香ちゃんのことをどう思ってるんだい?」
「解らないんです。冬二や健介は恋愛だとか、いろいろ言うけど、僕にはそう言うことが解らないんです」
「でも、明日香ちゃんのことが嫌いではないだろ?」
「はい。でも……」
「でも、真嗣君が明日香ちゃんが恋愛対象として好きなのか、それとも友達としてなのか、それは解らない、と」
「……はい」
「じゃ、そう思ってることを、そのまま明日香ちゃんに伝えるんだな
 さっき、君は『口に出して言ってくれないのに』って言ったじゃないか
 言わなきゃ解らないのは誰だって同じ、他人は結局他人なんだからな。
 でも、相手の気持ちが解らなくても、自分の気持ちを伝えることはできるだろう?
 べつにかっこいいことを言う必要は無いんだ。自分の気持ちを正直にそのままにね」
「でも、聞いてくれるでしょうか?」
「聞かせるんだよ、無理やりね。
 男の腕力なんて、そのためにあるようなもんだ」
 そういって加持は笑って見せた。

 二人に礼を言って、席を立つ真嗣。
 加持と冬月は、加持が育てているスイカの話があるとかで、まだ喫茶店にいるらしい。
 最後に冬月が声をかけた。
「真嗣君。」
「はい」
「安心しなさい、きっとうまく行くよ」
「はい」






 伝えよう。
 今の僕の気持ちを、そのままに。
 それしかないんだ。

 そして僕は明日香の家のドアの前に立った。








Go to Next
Return to EVA SS
Return to top