えばでONE

05A
りとん・ばい C.F (c.f@ijk.com)



 冬の朝。
 その日は朝から冷たい雨が降っていた。
 僕は明日香といつものように一緒に登校していた。
「明日香?」
「なに?」
「あそこに立ってるの……うちのクラスの綾波じゃない?」

 住宅地の真ん中にある更地
 そこに立つ一人の少女。
 色素が極端に薄いのか、肌は病的なまでの白さ、髪は銀。
 やや小さめの青い傘を手に持って、しとしとと降る雨の下で更地の奥を見つめていた。

「え?あんなのうちのクラスにいたっけ?」
「もぅ、12月だよ、今」
「だって、あんなのいたぁ?」
「綾波だよ……ほら、廊下側の後ろの方の席の……」
 うーん、と考え込む明日香。
 クラスメイトぐらい覚えててよ……
「……そう言えば、いたような気もするわね。綾波って言うんだ、彼女」
「うん、確か玲って名前だったかな」
「ふーん……って、なんでそんなに詳しいのよ、もしかして……」
 今まで僕の横にいた明日香が目の前に立った。
 明日香……にっこり笑いながら、鞄を振り上げないでよ……
「ちっ、違うよっ……美里先生が言ってたし、自己紹介だってあっただろう?」





 そんなこんなしてるうちに、僕と明日香は綾波のすぐ近くにまできていた。
 彼女に声をかけるか迷ったけど、やっぱりクラスメートだからね
「綾波?」
 僕が呼ぶと、彼女はちょっとびっくりした様だったけど
 すぐにその表情は消えて、問い返してきた。
「……誰?」
「……僕って印象薄いのかなぁ、ほら、同じクラスの碇だよ、碇真嗣。
 で、こっちが惣流明日香。」
 自分と明日香を示す。
「そう」
 最低限の言葉を返して、再び更地の奥を見つめている。
 さっきから彼女は何を見つめているのだろう。
 彼女の視線の先には膝丈にまで茂った草と雨を降らせている空しかない。

 と、明日香が僕を引っ張って、耳元でささやく。
「ちょっと、どっかおかしいんじゃない?こいつ」
「でも、クラスメートがいるのに、黙って通り過ぎるわけには……」
「あんたって、ほんと、律義ねぇ」
「そんなんじゃないよ……ただ、なんか、気になって……」
「『気になって』だなんて、やっぱり、あんた……」
 再び、明日香が険悪モードになってしまう。
 僕が鞄の一撃を覚悟したとき……

「それで?」

 綾波の言葉だった。
 僕らが何も返せないでいると、彼女は更に続けた。
「何か……用なの?」
「別に……用事が有るわけじゃないんだけど……」
 相変わらず、彼女は僕たちではなくて、更地の方を見つめているようだ。
「私も無いわ」
 そっけなく返してくる。
 いくらなんでも、これを歓迎と解釈するほど僕は馬鹿じゃない。
 なにより、このままでは明日香が切れる。
「じゃ、互いに用も無いことだし……」
 明日香を促して、その場を離れる。
 もうすぐ、学校に間に合わない時間だけど、綾波はどうするのだろう?





「待って」
 数歩、歩いたとき、綾波がつぶやくように小さな声で言った。
 彼女は、振り返った僕たちを一瞬だけ見つめる。
 その赤い目は何かを探しているようだった。
 そして、すぐに視線を逸らした。
「ごめんなさい。やっぱり、いい」












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