えばでONE

05B
りとん・ばい C.F (c.f@ijk.com)


 午前中の真嗣はずっとあの綾波とか言う女を気にしていたようだった。
 授業中も休み時間も。
 そして、昼休みも。

「健介、この席ちょっと借りるよ」
「ん?なんだ真嗣か。
 別に構わないけど、この前の冬二みたいに
 机を何段重ねられるかなんてのは、止めてくれよ」
「はは、そんな事するわけじゃないよ」
「そうか、じゃ、俺はパンでも買ってくるから」

 相田は気付かなかったみたいだけど、あたしは知ってる。
 相田の後ろは綾波玲の席。

 思った通り、真嗣は相田の席に座って、玲に話しかけている。
 あたしは、光との世間話を一時中断して聞き耳を立てた。

「……やあ、奇遇だね……。一緒にお昼ご飯でも食べない?……」

 何が奇遇よ。
 それに、あんなに声がうわずって、つくづく演技の下手な奴ね。

 ほら、玲も嫌そうな顔してる。
 ここにかわいい彼女がいるのに、朝から懲りずに……
 大体、お昼ご飯は私と一緒に食べるんでしょ
「ごちそうさま」
 玲が食べかけのお弁当箱をしまって立ち上がった。
「まだ、食べかけじゃない」
 真嗣はうろたえてる。
「……おなか一杯だから……」
 嘘ね。
 いくら女の子だからって、あれじゃ、後1時間ももたない。
「でも、残すのは良くないよ。
 ほら、お米には神様がいるって……」
「今日はサンドウィッチだから」
「……それでも半分ぐらいは……」
「いません」

 ……強力ね、玲って。
 真嗣じゃ、とてもかなわないわね。

 お弁当箱を抱えた玲は、さっさと教室の外へと出ていってしまう。
 どこか別の所で食べる気なのかも。



「あっ、待ってよ」
 あたしの前を駆け抜けようとする真嗣の腕をつかむ。
 ぐい。
「明日香ぁ、急いでるんだから、放してよ」
「あんたねぇ。嫌がってる相手にしつこくするの止めなさいよ
 それとも何?そんなにあの子のことが気に入ったの?」
「そんなんじゃないって……
 気になったんだよ、あんな所で、あんな雰囲気で……」
 この真嗣の表情には見覚えがある。
 ……例えば、あたしが泣いてる時の表情。

「わかったわよ。あたしも一緒に探しに行く」
「え?」
「監視よ、監視。真嗣がナンパなんてするとは思えないけどね」



 と、言うわけで二人で探しに出たものの……
 もはや、玲の姿は見当たらなかった。
 あんなに時間を取ったのだから当然だけど。
「どこに行ったのかなぁ?」
「そんなのわかるわけないでしょ。
 まぁ、行きそうなのは……中庭と学食と屋上ぐらいだろうけどね」
「うーん……そうだ、中庭ならここの窓から見えるね」
 真嗣とあたしが窓から中庭のほうを見ると……
 銀色の髪の人物が中庭の木の下に座ったのが見えた。
「あっ、あの髪」
「間違いないわね」



 外はひどく寒かった。
 秋だと思っているうちに、冬になってしまったみたい。

 木の下に座っている玲の近くに行く。
「何か用?」
 冷たい視線が返ってくる。
 それに答えようとする真嗣を制する。
(あんたはちょっと黙ってなさい)
「ほら、同じクラスなんだから、お昼でも一緒にどう?」
 内心のいらつきを何とか押さえて、にっこり笑ってみせる。
「迷惑です」
 うっ、きついわね、全く。
 ともかく、玲の近くに座ってお弁当を食べ始める。

 時々、真嗣が話しかけるけど、今まで通りのつれない返事で間が持たない。
 付き合うあたしのストレスも溜まる一方。

 それにしても寒いわね。
 こんな時期に外に出るなんて……真嗣のせいよ、全く
「綾波さん……寒くない?」
「寒くないわ」
「僕はすごく寒いんだけど、ねぇ、明日香?」
「そうね、こんな日に外でお弁当を食べるなんて正気じゃないわね」
「そうでもないわ」
「無理してんじゃないわよ、これが寒くないなんて異常よ」
「……気のせいだわ……」
「綾波さん、体ふるえてない?」
「そんな事……ないわ」



 今日はこれで時間になったので戻ったのだけど……
 こんなのを明日も続けるの?







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