えばでONE

05C
C.F (c.f@ijk.com)


 あれから10日ほど経って、真嗣とあたしは玲と少しずつ打ち解けた仲になっていった。

 最初の三日間、玲の持っている壁は完璧だった。
 真嗣やあたしが話し掛けても、無視、冷たい目、明確な拒絶が待っているだけだった。
 それでも真嗣は玲を見ていた。話し掛け続けていた。
 寒さが身にしみる昼食も慣例となりつつあった。

 次の三日間、玲の壁は少し崩れた。
 少なくともこちらの言う事に対して答えてくれる、相変わらずの無表情だったけど。
 料理が得意な事、甘いものが好きな事……
 あたしなんかよりもずっと普通な女の子だった。
 時折見せる、あの雰囲気を除けば……



 残った壁は、妙なきっかけで崩れることになった。

 いつもの様にあたしと真嗣と玲の三人で通学路を歩いていたとき、あたしは「それ」を見つけた。
 道の横に自販機が数台並んでいる。
 その中でも決して売り切れにならないモノ
 伝説のアレ
 アレを飲んだら、いくら玲でも顔色が変わるだろう。
 と、言うわけで……

「最後が体育だったし、なんか飲みたい気分ね
 ちょっとそこで買って、公園でも行かない?」
「そうだね
 あ、綾波は時間大丈夫?」
 玲が真嗣の問いに頷いている。
「じゃ、決まりね
 真嗣は何にする?」
「あ、僕はコーラで良いや」
「玲は?」
「何でも良いわ」
「そ、じゃ、これね」
 作戦成功。
 コーラと缶コーヒー(これはあたしの分)とアレを抱えて、公園へと向かった。



 噴水の横のベンチに三人で座る。
 真嗣にコーラ、玲にアレを渡す。
 玲に渡したものを見た真嗣は何か言いたげだったが、にらみつけて黙らせる。
 そして、自分の分のコーヒーに口をつける。
 もちろん、玲の様子を観察しながら。

 あたしにアレを渡された玲はとりあえず缶を見ているようだった。
 確かに奇妙な色使いだけど……早く飲みなさいよ!
 プルトブを開けて、アレを飲み始める……
 飲んでいる……
 飲んでいる……
 飲んで……
 ちょっと、一気に飲むつもりぃ!?
 ……飲み干してしまった
 あの発泡する麦茶なアレを……
 顔色一つ変わっていない……
 玲って隣の国の出身なのかしら?
 あの国の人気飲料らしいんだけど

 あたし達の周りを沈黙が包む。
 噴水の音が空しく響く。

「ちょっと、玲!
 あんた、何で平気なのよ。
 いくら冷えてると言ったって、一気飲みだなんて
 死ぬわよ!普通」

 あっ、やばい、言ってしまった。
 真嗣と玲があたしを見ている。

「ねぇ、明日香?
 死ぬって……どう言う事?」
 真嗣が聞いてくる。もう、うるさいわね!

 そして……玲はあたしを今までに無いほどの冷たい目であたしを見ていた。
「……死ぬ?」
 うっ
 玲から発せられている圧力がさらに強まる。

「わっ、悪かったわねっ!
 ちょっとした出来心なのよ!」
「……」

 なおも圧力をかけてくる玲から視線を外すと、ちょうどよく公園の前の山葉堂が目に入った。
 確か、玲は甘いものが好きって……

「ワッフル3個!
 今から買いに行って来るからっ!」
「……5個」
「解ったわよ、5個ね!」

 あたしがそう言うと、玲は少し微笑んだ。

 はじめて見た玲の笑顔はとてもきれいだった。







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