てぃ〜たら〜てぃ〜てぃ〜てぃらた〜 てぃ〜らてぃてぃてぃ〜(オープニング曲)


すくすくいぬふく「二月」


text by くわね(kuwane@fc4.so-net.ne.jp


「おっかいもの〜、おっかいもの〜」
 三時過ぎ、最近見たテレビのCM(どこかのスーパーのCMだったと思います)で覚えた歌を歌いながら、わたしは鍵を掛けました。これから夕ごはんの買い物なのです。
 こういうときチョビは大体、どうやっているのか知らないけどわたしの頭の上に頑張っています。
 軒の下から出ようと一歩踏み出したとき、目の前を白いものがふよふよと降りていきました。灰色の空からひとつ、ふたつ。じきに、たくさん。
「はや、雪が降ってきてしまいました」
 わたしは玄関の扉の前に戻ると、その横に置かれた陶器の傘立てから水色の傘を選んで抜き出しました。去年の六月に、浩之さんが買ってくれた傘です。
「帰ったら雪で遊びましょう」
 傘をさすために頭の上から降ろして、麻のお買い物袋の方の席に移したチョビに言うと、チョビは分かったのか分からなかったのか「にょ」と答えてくれました。

 あちらこちらに「バレンタイン」という文字の踊る駅前のアーケードは、それでも少し混んでいました。
 わたしはその中にあるいつものスーパーを目指します。
 突然、チョビが信じられないスピードでお買い物袋から飛び出しました。
 丸い体は一直線にスーパーの前に出ていたワゴンに向かいます。
「きゃーっ」と売り子の人が声を上げました。
「え、え、え?」
 気がつくとチョビがワゴンの上で暴れていました。
 何が起きたのか分からないでおろおろしていると、びしっ、という音が聞こえました。
 ゆっくりと目を開けると、綾香さんがいました。
「あやかさぁぁぁん」
 綾香さんはわたしを作ってくれた来栖川電工の、偉い人のお嬢さんです。わたしは、綾香さんが双子のお姉さんの芹香さんと一緒に研究所に遊びに来たとき、お話をしたことを覚えています。
 綾香さんは指先が出るかたちの手袋をした手でぐるぐる目を回しているチョビの背中をつまむと「はい」とわたしに渡してくれました。
「これ、あなたの犬福なの?」
「はいです〜」
「犬福はチョコが大好物だからこの時期にはこういう場所へは連れてこない方がいいわよ」
 そう言うとふと、綾香さんは私をじっと見つめました。
「そっか、あなたが最初のマルチね。元気にしてた?」
「はい。浩之さんもみなさんもとても優しくしてくれます」
 それを聞いた綾香さんはとても優しい顔になって、いいました。
「そう、よかったわね」
 その後、綾香さんはわたしの買い物が終わるまでお店の外でチョビを見ていてくれて、その上に綺麗にラッピングされたチョコまで買ってくれました。
「ひとつはあなたのご主人様………ひろゆきくん、だっけ?……に、もう一つはチョビにね」
 別れ際、本当にありがとうございました、と私が頭を下げると
「気にしないでいいって、別に。だけど、うん。ひろゆきクンへのチョコは私と姉さんからってことにしておいてもらえるかな?姉さんから、ってのがポイントよ」
 そう言って、綾香さんは雪の中へと歩いて行ってしまいました。

つづくらしい







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