てぃ〜たら〜てぃ〜てぃ〜てぃらた〜 てぃ〜らてぃてぃてぃ〜(オープニング曲)


すくすくいぬふく「三月」


text by くわね(kuwane@fc4.so-net.ne.jp


 体をゆすられる感覚に目を開くと、目の前に何か嬉しそうなマルチの顔があった。
 春休みだというのに朝早く起こされた俺が、何だよ、と不機嫌そうな声を上げると、今度はチョビの姿が目の前に大きく現れた。正確に言うならば、マルチが俺の目の前にチョビを差し出したのだ。
「見てください、見てくださいっ」
 マルチの声がする。
 仕方が無いので体を起こさないままでチョビの様子を観察するが、何か変わった事があるのか良くわからない。
 どうかしたのか?、と改めて聞くと、足が生えたんですっ、と言う答えが帰ってきた。
「何っ」
 俺は慌てて体を起こす。
 よくよく見ると確かに大福のようなチョビの体の下の方に注目すると足、とおぼしき突起物が見えた。
 何というか、ノリが両生類だ。
「浩之さん、朝ごはん食べたらお散歩に行きましょう」
 ん。と短く返事をすると、マルチは朝食の仕度をしに階段を降りていった。

 テレビを見ながら朝食を採る。
 春休みとしては破格に早く、普段より少し早い時間。ブラウン管に映っているのは朝いつも見るニュース系のテレビ番組だが、あまり見た事の無いコーナーだった。
「散歩なら、公園くらいまでがいいかな」
 机のすぐ横で専用の皿にあけられた犬福フードを食べるチョビを見おろしながら言うと、台所の方から、そうですね、と答えが返ってきた。

 家から公園までの道。丁度駅までのショートカットになる、高校時代は毎日のように通った道だ。
 その頃の事を思い出してみたりしながら、俺はマルチと一緒にゆっくりとしたペースで歩く。
 公園についたところで、チョビを地面に置いてみる。
 すると、チョビはあまり早くは無かったが4本の足ひょこひょこと歩いて見せた。
 わぁ、とマルチが嬉しそうな顔をする。
 そのマルチの様子を見て、俺も思わず顔がほころぶ。
 だが、すぐにそのマルチの顔は驚きと恐怖の入り混じった表情に変わった。
 チョビが、髪の赤い、派手な服装をした怪しい女に捕まえられて「にょ〜〜」という情けない声を上げていた。
 しかも、浮いてる。
 周りから浮いているだけではない。物理的にも浮いているのだ。
「何だお前はっ!?」
 と聞くと、ロンチー様だよ、という答えと、お前達の犬福をいぢめてやるから覚悟しな、といういささかしまらない言葉が返ってきた。
 そして状況が良く飲みこめないうちに女はチョビをぽいっと放り投げると高笑いをしながら、消えた。
 後に残されたのは俺と、今にも泣きそうなマルチと、目をぐるぐる回して地面にひっくり返っているチョビだった。



つづく







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