echoesの風景

C.F (c.f@ijk.com)



「それでね、由綺ったらね……」
「あっ、理奈ちゃん!言わないでって言ったのに……」
 平日の午後、俺と由綺と彰、それにOFFの理奈ちゃんの4人は
 echoesのカウンターに座って、理奈ちゃんの話を聞いていた。
 話題はTV局での由綺のボケぶり。
 理奈ちゃんの話によれば、由綺の行動は相変わらずらしい。
 まぁ、それが由綺の魅力なんだが。

 からん、からん
 店のドアにかかったカウベルが響く。
 入ってきたのは男ばかりの3人だった。
「いらっしゃいませ」
「テーブルになさいますか?」
 頷くのを確認して、奥のテーブルへ導く。

 注文を取って戻る。
「彰、ミルクティー1つ、よろしくな。俺、コーヒーやるから」
「うん」

 注文を届けて、カウンターに戻ると、興味津々という雰囲気で、理奈ちゃんが話し掛けてきた
「冬弥君。あの3人、妙な取り合わせだと思わない?」
「理奈ちゃん、お客さんに失礼だよ?」
 そう言う由綺も3人のことが気になるようである。
「大丈夫、聞こえやしないわよ」

 結局4人で彼らを観察してしまう。
 1人は髪のほとんどが白くなった男。誠実で温和な雰囲気。
 座ってからもほとんど口を開かず、時折ミルクティーを口に運ぶ。
 2人目は30前後の男。長髪を縛った髪と無精髭が軽薄な印象を与えるが、真剣な目をしている。
 基本的に話しているのはこの男のようだ。
 最後は高校生ぐらいの少年。
 長髪の男の話に頷いたり、短い答えを返している。

「で、ずばり何だと思う?」
「親子3代…でもなさそうだね」
 彰がミステリファンとしての面目躍如……とはいかないか。
「そうね、上下2人はともかく、あの長髪・無精髭は違うわね」
 なんてことを小声で話し合っていると、彼らの話声が聞こえてきた。

『それで、真嗣君、君は明日香ちゃんのことをどう思ってるんだい?』
『解らないんです。冬二や健介は恋愛だとか、いろいろ言うけど、僕にはそう言うことが解らないんです』
『でも、明日香ちゃんのことが嫌いではないだろ?』

「恋愛相談みたいだね」
「だな」

 恋愛相談か……
 そんなことにも推奨年齢があるんだろうか?
 他人に、いや知人だからこそ知られたくない心の奥底の気持ち。
 そんなものが心に溜まってしまった俺達にはもはや無理なことなのかもしれない。

「あ、終わったみたいよ」
 理奈ちゃんの声に彼らを見ると、席から立ち上がった少年に老人が声をかけていた。

『真嗣君』
『はい』
『安心しなさい、きっとうまく行くよ』
『はい』

 少年は入ってきたときよりもいくらか自信のこもった目で前を見つめながら、店を出ていった。
「あの子、良い目をしてるわね」
「うん、うまくいくと良いね」

 心の底にたまったものを他人は取り除くことも理解することもできないのかもしれない。
 でも、それを持った相手を信じて、受け入れていくしかない。
 由綺の見せた笑顔に、俺はそう思った。







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