曇り時々雪


C.F (c.f@ijk.com)


 平日の午後、echoesにいるのは俺だけだった。
 もちろん、客として店に居るわけじゃない。
 大学は入試のため今日から4連休。
 バイトの片割れの彰は、美咲さんと美術館に行くらしい。
 よって、今日1日俺が出ることになったのだ。
 もちろん店長は居るのだが、客が来るようになる夕方まで奥に引っ込んでしまっている。

 カウンターに座って、黙って窓の外を見る。
 この冬1番の冷え込みとかの今日の天気は曇り時々雪。
 こんなに冷え込んで、しかも風も強い日にわざわざ出かけるという人も少ないのだろう。
 窓の向こうの人通りもまばらだ。

 からんからん
 ドアに下がっているベルが鳴り、来客を伝える。
「いらっしゃいませ……って、何だ、はるかか……」
「暇だと思って……ここ、いい?」
 はるかは俺からは少し離れたカウンターの席を指す。
 肯いて、水をはるかの前に置く。
「で?」
「……?だから、冬弥が暇してると思って……」
 心底疑問という顔つき。
「じゃなくて、オーダー」
「あ、そうか、あはは」
 そう言って、虚空を見つめる。
 :
 :
 :
「サンドイッチとブレンド……」
 たっぷり3分はかかった。
 って、それほど悩むほどのオーダーなのだろうか?


 出来上がったサンドイッチを食べている、はるか。
 一見、考え事でもしてそうだが、本人に聞けば
 「ぼーっと、食べてただけ」とか言われそうなので
 あえてこちらからも声をかけない。
 そうして、俺はそんなはるかをやっぱりぼーっと見ていた。


「あ……ゆきだ」
 突然はるかがつぶやいた。
「雪ならさっきから……」
「あはは、違うよ、森川由綺」
 そう言われて気づいた。
 どこかから、由綺の歌声が聞こえてくる。
「……そうだな……」
 聞こえてくる歌に耳を澄ます。
 信号待ちの車から聞こえてきたらしく、1分もしないうちにその歌は遠ざかっていった。
「由綺……がんばってるね……」
「……ああ……」
 その歌は音楽祭の後、理奈ちゃんとのトリービュートで出したアルバムの曲だった。
 音楽祭のトップ2人が歌い、英二さんによってプロデュースされたそのアルバムは当然ながら、ミリオンヒットとなった。
 俺もはるかも、そのアルバムを由綺から贈られたが、俺達はそれを開封しないで街のCDショップで買ったアルバムを聞いている。
 俺達にはそうすることでしか、思いを由綺に伝えることができない、そう思ったから。


「なぁ、明日、暇か?」
「暇だよ」
 唐突に話しかけた俺に動ずることもなく、すぐさま答えてくる。
 その言い方は、どこか誇らしげですらある。
「……テニス……しに行かないか……」
 一瞬、驚いたような顔をする。が、
「……いいよ……」
 いつもの笑顔ではるかは答えた。
「冬弥……下手だから教えてあげるね……」


 窓の外では、いつのまにか晴れ間が出ていた。
 そして、射し込む日の光の中で、いまだ降り続いている粉雪が舞っていた。







Return to Leaf SS
Return to Top