by 涼(a_saito@din.or.jp


「・・・・・・」
茜は無言だった。
恐らく怒っているのだろう。
最近その程度ならわかるようになっていた。
「なぁ、茜ぇ」
無駄だろうとは思ったが、もう一度声をかける。
「・・・・・・」
やはり無言。
「悪かったって。ホント」
「・・・たいやき・・・」
さっきから、この台詞しか聞いていないような気がする。
俺は、溜息をついて周囲を見渡す。
見慣れぬ風景、いや、風景とすら言えないかもしれない。
そこは、このような場所、町のどこにあったのかと疑いたくなるような
曲がりくねった路地だった。
そう、俺達は道に迷っていた。
茜を誘ってたいやきを食べに行くつもりでいたのだが、
気付いた時にはもう戻れないような訳のわからない所についていた。
渋る茜を何とか促し、せめて大きな道に出ようと努力はしているのだが、
一向に出口は見えない。
尚も俺達は歩く。
元から狭い路地で、日は入ってきていなかったのだが、
それでも空の明るさでまだ日が出ていることくらいはわかっていた
しかし、もう空の色も赤から漆黒へと変わりつつある。
「なぁ、茜。俺達帰れるかなぁ」
呟く。
元から口数の少ない茜に加え、俺も疲労から口数が減っていき、
お互い殆ど無言の状態が続いていた。

そして、今日何度目かの分かれ道。
俺は、半ばヤケになって茜に聞いた。
「茜、次はどっちが良い?」
「・・・・」
やはり無言。
しかし、俺が半分諦めた所で茜は口を開いた。
「折角だから・・・」
茜が口を利いてくれたことが少し嬉しくて、俺は聞き返した。
「折角だから?」
意を決したように、茜は俺を正面から見つめ、その言葉を発した。
「折角だから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
日が沈み、冷たくなった風が俺達に吹きつける。
俺は、やっとのことで口を開く。
「茜・・・お前・・・」
「・・・はい。・・・発売日に・・・予約して・・・」
顔を赤く染め、茜は俯く。
俺は、そんな茜になにも言ってやれなかった。



(完)







ども。涼です。
・・・こんなくだらないの書いてる暇あったら連載どうにかしろ?
御尤もですm(__)m
ちと試験やレポートやらkanonやらで修羅場だったもので(爆)

取り敢えず、茜に「あの」台詞を言わせてみたかっただけです(^^;;
実際に書いてみると、こういうタイプのSSでは、
やはりいたちんさんにはどうやっても敵わないなぁというのが感想(^^;



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