想いは想いを呼び、山は山に連なる。


ONEからさめない


text by くわね(kuwane@fc4.so-net.ne.jp


#16 動物園襲撃II

 繭の話から分かったことがいくつかあった。
 私は、繭に会ったことがあるということ。そして何より、私は折原浩平にも会ったことがある、ということ。
 それが分かったところで今はどうしようもないとは思った。少なくとも今は、きゃー、久しぶり!なんて喜べる状況ではないのだ。
 それよりも私には留美の行方が気がかりだった。
 何度か彼女のPHSにかけてみたが、つながらなかった。電波が届いていないのか、電源が切られているのか、それともおっちょこちょいで家に忘れてきたのか。つとめて、あまりネガティブなことは考えないようにしようと思った。
 そして今晩何度目かのコールをしようとして携帯を操作しようとしたとき、繭が、寄り掛かっていた建物から、まるでネコが獲物の気配に気付いたときのように体をすっと起こした。
 見ると、その横に寝そべったジョイも首を起こしていた。
 瞬間、何かが爆ぜるかわいた音が響き、動物達が一斉に騒ぎはじめる。
 一様に神経を逆撫でするようなやりかたで、様々な鳴き声が発せられた。
 右手に持った携帯の液晶画面を確認すると、予定より少し早いだけだった。
 繭はすでに立ち上がり、臨戦態勢を取っていた。
 ちょっと、と声をかける間もなかった。
 繭が駆け出す。
 私は小さく舌打ちをしてその後を追う。
 とりあえずこれで、分かっていることが一つ増えた。
 繭の話の登場人物が少なくとも一人、おそらくは氷上シュンが、今、この場にいて、折原浩平の計画を実行しようとしているのだ。

 詰め所までの最後の遮蔽物の影で、私は繭をつかまえた。
「見つかったらどうするつもりなの?」
 小さい声で問いただすと、彼女はきっとこちらを睨んだ。
 それは今までに見たことの無いような、険しい、けれども綺麗な瞳だった。
「浩平の、おねがいだから」
「だからそれで?」
 そうこうしているうちに詰め所の中から赤い光が二つ、現れた。異変に気付いた夜勤の職員だった。
 その動きを見て、繭は再び走り出す。
 それを捕まえ損ね、質の悪い野良猫みたい、と思いながら、彼女の背中を追って私もまた、走り出した。
 
 詰め所の中に鍵をかけておく箱があるということは、ノートを読んで知っていた。
 その箱はおよそ高さ30cm。木製で観音開きの扉がついていて、箱の奥の部分に3段8列のL字フックがあり、そこにプラスチックのキーホルダーがついた様々な建物の鍵が下げられていた。
 着けっぱなしで置かれたTVのスポーツニュースの声が小さく響く部屋の中で、繭はその中から適当に鍵を掴むと、入り口付近に立った私に投げてよこした。
「それはあげる。でも、これは、あげない」
 基準はよく分からなかったが、繭は自分の分らしい鍵を数本持つと、私を突き飛ばすようにして、闇の中に消えた。
 いつの間にか私の真横に座っていたジョイの鼻先に足をつつかれて我に返ると、見つからないよう移動しながら考えた。
 多分、彼女は何か言いたかったんだと思う。けれども、ことばが足りなかったのだ。
 ああもう!
 私は行間を読むとか、ことばの端に含まれた意味を酌むとかそういうことが苦手だから理系を選んだっていうのに。



        つづく







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