喋る笑う恋をする
僕たちはさよならする


ONEからさめない


text by くわね(kuwane@fc4.so-net.ne.jp

#24 夜は明ける、私達は、歩き出す。

 温室の中から留美と、氷上と、もう一人。繭が出てくるのを待って、私たちは人気のない裏手から逃げ出した。
 たくさんの、行き場を失った動物達の間を縫って、ここに来たときは知らないかった、3人の「同志」と一緒に。
 折原浩平の残したノートに、そこに紡がれていた言葉に導かれるように、年の始めの新月の水曜日、動物園を「解放」するために集まった同志。
 広い公園の池のほとり。水銀灯の明かりの下。しばらくの間私たちはサイレンの音をBGMに喋った。
 気がつけば、妙に細かいところに気の回る氷上がコンビニで買ってきた缶ジュースとお菓子を手にしながら。
 話題はもちろん、折原浩平と、何より私たちの起こした奇跡について。
 ふと、みさきが呟いた(話していたら彼女は私より一つ年上だったということが判明したけれど、彼女は「みさき」でいいよ、と言ってくれた)。
「また、会えるかな」
 大丈夫だよ、と氷上が応えた。
「新月の水曜日に、僕たちはまた会える」
「また、この場所で?」
「むしろ、あの場所で」
 首を巡らせ、視線を動物園の方へと向ける氷上。
 私もそれに付き合う。そして、言う。
「そだね。新月の水曜日に。あの、動物園で」
「できれば、普通の時間にね」
 留美が一言、つけ加えた。
 空の端が、少しずつ白み始めているのが見えた。
 夜が終わる。お祭りが終わる。

 別れ際、留美がみさきに言った。
「先輩、浩平の奴、帰ってきてたら連れてきて下さいね」
 いいけど、なんで?、と聞き返した彼女に、留美が答えた。
「今日のこととか、その前のこととか、ちょっと殴ってやろっかなぁって」
 その言葉に、留美ちゃん、結構過激だね、と笑ってから、みさきは何かに気がついたのか、留美の顔をまじまじと、何も映さない瞳で見つめた。
「今、その前、って言ったよね」
「色々と思い出したんですよ。思い出さなければ良かったって思うような類のことばっかりですけど」
「だから?」
「あいつにあったら、最低でもひとつは殴ってやろう、と」
 左手に拳を打ち付けながらの留美のきっぱりとした物言いに、みさきが吹き出す。氷上はそれを半分困ったような笑顔で眺め、繭は何が起きたのかよく分かっていないらしく、皆の顔を見回した。
 ひとしきり笑ってから、みさきが口を開いた。
「そっか、留美ちゃんも、思い出したんだ」
「そう、ですけど?」
 すぅっ、と大きく一つ朝の空気を吸うと、みさきはゆっくり言葉を発した。
「動物園を解放したことは私達の秘密。私達はそれを思い出せる。でも、思い出せるのは、瞬間の断片、だけなんだよね」
「だったら、書けばいいじゃない」
 私は、言った。
「言葉をつないで、折原浩平がノートを残したみたいに」
「そうすれば、瞬間の断片が、つながる、かな」
 責任持てないけど、と言う私の言葉に、少し残念そうにうつむいたみさきの上着の裾を、繭が2度、引っ張った。



        つづく







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