―僕たちがはっきりと知覚し得るものは現在という瞬間に過ぎぬわけだが、
それとても僕たちの体をただすり抜けていくだけのことだ


終わりの季節


by 涼(a_saito@din.or.jp


序 "Time passed me by"

私は、笑顔でいるつもりだった。
本当に笑顔でいれてるとは思っていなかったけど、
それでも、少なくとも悲しそうな顔はしていないつもりだった。
「・・・浩平は、必ず帰ってくる。」
その時に、笑顔で浩平を迎えてやりたかったから。
だから、いつもウサぴょんにむかって「お帰り、浩平」って言う練習をしていた。
ウサぴょんも、そんな私をいつも元気付けてくれている。
端から見ればとても滑稽だけど。
それでも、ふとした時に私を襲う、「浩平という存在は、もう完全に失われてしまったのではないか?」という恐怖感、或いは、「折原浩平という人物は本当に存在していたのか?」という、ともすれば、脆くなっていってしまいそうな自分の気持ちから私を護ってくれていた。

例えば春、
「あはっ。今日はやっぱり緊張するね。一緒のクラスになれるといいけど・・・」
「別に俺は違っても全然構わんぞ」
「む〜。そんな事言うならこれから宿題見せてあげないから」
「うっ。それは〜その〜何といいますか〜所謂私が悪かったと思わなくもないよう気がすると言えるかもしれなく〜」
「ご、め、ん、な、さ、い」
「いえいえ」
「む〜」

例えば夏、
「今年もやっぱり海に行く?えっとね、えっとね、あはっ、佐織と、住井君と、南君と、え?沢口君?そんな知り合いいたっけ?あ、あと、みさき先輩も誘って、それでね、それでね、」
「別に構わんが、また溺れたお前を助けに行くのは嫌だぞ」
「溺れてなんかいないもん。溺れていたのは浩平の方だよ。みんなが止めるの無視してどんどん先に行っちゃうんだから」
「ばかっ。あれは溺れたんじゃないぞ。浮力と根性との関係をだな、科学的に検証・・・」
「あっ佐織〜。今年もね、海に行くんだ。だからね」
「ばかっ。人の話は最後まで聞け」
「だって浩平訳のわからないこと言うんだもん・・・」

例えば秋、
「もうだいぶ寒くなったね」
「俺は全然寒くないぞ」
「も〜。寒いくせに〜。あっ。そうだ。うちのすぐ側に焼きいも屋さん来てるんだ。浩平も一緒に食べに行こうよ」
「よし、行くか。寒い時には焼きいもが一番」
「ほら、やっぱり寒いんでしょ」
「俺は寒いなんて言ってないぞ」
「も〜。嘘つきは泥棒のはじまりだよ」
「お前は幼稚園児か」

私にとって浩平が側にいる季節というのは、あるのが容易に想像できるというレベルではなく、最早起こりかけの現実として私の前に現れ、事実の方が歩み寄ってくるようにも思える程だった。
それだけに、浩平のいない季節は、私の内部でもも何かが欠落してしまったかのようで、終わることのない違和感と、自分自身の存在の小ささ、希薄さを感じさせるものだった。
それでも私は泣かなかった。
それが浩平との約束だ。そう思っていたから。

そして1999、冬。
Time passed me by.







ども。涼です。多くの人にははじめまして。
一応これが私のSS処女作です。
クリスマスをネタに何かSS書いてくれとc.f.氏に依頼されたんで取り敢えず書いてみました。全然クリスマスの話になってませんが。
まあ次回あたりからクリスマスっぽくなっていくでしょう(多分)。
最初は美咲さん(みさき先輩に非ず)ネタでいこうかな?と思っていたんですけど、方向転換してなぜかこうなっちゃいました。
次回は"Winter comes around"です。クリスマスまでに完結することを祈って・・・。



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