Oramus Filis

僕達の大切な人達へ
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 ちょっと急ぎ足で、喫茶店の中に入る。
 約束の時間に10分は遅れている。
 予想通り、お姫様はご立腹の様子。

「ごめん、アスカ。待った?」
「ったくぅ、なにやってんのよ」
「ご、ごめん」
「チョコパフェね」
「え?」
「チョコパフェよっ」

 補完計画が終了してから、もう10年が経った。
 僕達が生まれた年から始まった非日常の祭典は14年後に幕を閉じ
 再び、日常の平穏へとたちかえっていた。
 生まれ変わったこの世界で、僕達はあの14年間を見つめなおすことを決めた。
 アスカは第2東大の形而上生物学研究室で助手をやっている。
 僕は同じ第2東大の宗教・社会学研究室で院生の身だ。
 今になって、ようやく、父さんや母さんが見ていたものが、僕にも見えるようになってきた。

「でね、でね」

 同じ大学とは言っても、研究の方で手一杯で、それほどアスカに会う機会があるとは言えない。
 だから、こうしてたまに会うときには、僕もアスカもその間隙を補うかのように、良く話す。
 研究室でのこと、日常生活でのこと、トウジやケンスケや洞木さんのこと
 そして、あの後、僕の妹になったレイのこと。

「ちょっとぉ、聞いてんの?……シンジ!」
「あ、あぁ、ごめん」
「ったく、もう」

 お姫様は完全にご機嫌斜めだ。
 うーん、これは……持ち合わせが足りるかな?
 財布の中身を考えながら、僕は窓の外を見た。

「あれ?もう、クリスマスなんだ?」
「へ?」
「いや、ほら、外に……」
 窓の外を指差す。
 そこには、夜空に輝くクリスマスツリーがあった。
 ツリーの周りには人々が群がっている。
「あんたねぇ、研究室にこもりっきりで、季節感が無くなってんじゃない?
 ……ま、それはあたしも同じか」
 2人で苦笑する。

 アスカと僕は顔を見合わせて、窓の外を見た。
 恋人と家族と友人と、共に過ごす1日。
 その1日を楽しむ人々の姿があった。

「シンジ」
「ん?」
「あんたが……守ったのよ」
「うん……僕達が守ったんだ」





「……さっ!行きましょ
 レイも帰ってきてるんでしょ?」
「うん。
 腕をふるって待ってるって言ってたよ」
「ふーん、あの娘も変わったわねぇ
 ま、変わらなかった奴なんていないんだけどね」





 そして、僕達はもう1人の仲間が待つ家へと向かう。
 僕らが見た、経験した、あのときを確認するために。





Oramus Filis
子供たちのために、僕達は祈る。
再び、変革のときが来るまで……












Oramus Filisとは文中にある通り
ラテン語で『子供たちのために、僕達は祈る』という意味です
ラテン語は性数格、時制、法などで単語が細かく変化するので
これだけのことが、たった2語で表現できてしまいます。



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