海へ行こう

by いたちん(faw@orange.ocn.ne.jp


 俺は車に揺られていた。
 後部座席で横になっている。
 昨夜、遅くまでテレビを見ていて眠いのだ。
「ドナドナド〜ナ、ド〜ナ〜♪」
 真琴が歌っているのが聞こえる。
 なぜ、その歌かは知らない。
 真琴がいるのが助手席。
 運転してるのが秋子さんだ。
 そして、名雪と俺が後部座席にいる。
 そして、俺は横になって……名雪の膝枕状態である。
 眠いので横になりたいといったら、秋子さんから「了承」でたからだ。
 名雪の方は事後承諾である。
 恥ずかしがっていたが。
 こうして、車の揺れと、いい枕の感触によって俺はゆっくりと眠りに落ちていく……
 名雪が起きてる時に、俺が寝るのはちょっと悔しいと思うのはなぜだろう。
 ふと、そんな事を考えた。


「祐一さん。そろそろ着きますよ」
 秋子さんの声で意識が戻ってくる。
 ……ということは、かなり寝ていたんだな。
 ほとんど熟睡だったようだ。
 しかし、『もうすぐ』ということは、まだ着いてないという事だ。
 そのまま目をつむって横になってる事にした。
 ……ふと、いたずら心が沸き上がる。
 俺は右手を動かしてそっと、名雪の後ろに手を回した。
 そして……さわっ、すりすり
 ついでに頭も動かす。
 名雪がどう反応するかな、と思っていたのに返ってきた声は違っていた。
「きゃーーーーっ」
 その高い声と共に俺の頭がぼかぼかたたかれる。
「いて、いてっ」
 俺は頭を押さえながら起き上がった。
「あうーっ。祐一なにすんのよー」
 真琴だった。
 前を見ると名雪と秋子さんがこっちを見ていた。
 名雪は助手席にいた。
「秋子さん、運転!!」
「あら」
 慌てて指摘するも、車は赤信号を通過していった。
 事故らなかったのは幸いだ。
「なんで、真琴が後ろにいるんだ」
「真琴が代わって欲しいって言うから、途中で代わったんだよ」
 名雪が答えた。
 俺は真琴を睨んだ。
「マンガでこういうシーンがあって、やってみたかったから……」
 どうやら、膝枕というものを体験してみたかったらしい。
「よし、やらせてやろう」
 俺はぽんぽんと自分のふとももをたたく。
「いやーっ。祐一の膝枕なんてっ」
 両手で頭を押さえて首を左右に振る。
 そんなリアクションを取るほど嫌なのか……?
 冗談での提案だったが、ちょっと悲しくなる。
「それで、さっきの悲鳴はなんだったの?」
 名雪が聞いてきた。
「それはな……」
「祐一がお尻さわってきたのよっ」
 なんとかごまかそうとしたが、真琴に言われてしまった。
「それは祐一が悪いよ」
「いや、名雪だと思っていたから……」
「私でも同じだよ〜」
「でもいやじゃないだろ?」
「時と場合によるよ」
「分かった。今日のところは気をつけよう」
 一件落着したところで(名雪と真琴はまだ不満そうだが)ちょうど、着いたらしい。
 車が止まる。
「着きましたよ」
 俺達は車から下りた。
 そして、景色を眺める。
 遠くに見える水平線。
 海だ。
「では行きましょうか」
 秋子さんの言葉で俺達は道具を用意した。
 秋子さんが車にキーをして……
「うぐぅ……」
 ……
「名雪……今何か聞こえなかったか?」
「気のせいじゃないかな?」
 そうか、気のせいか。
 そうだよな。
 ガタガタ……
 突然、車がゆれる。
「うぐぅ……出れない……」
「気のせいじゃないかも」
「そう言えば、家で準備していた時にもトランクから『うぐぅ』って声が聞こえていたわね」
 思い出すように秋子さんが呟く。
 そこまで分かっていたなら対処の仕方もあったと思うのだが……
「秋子さん、キー貸してください」
「はい」
 俺は受け取って車のトランクを開けた。
「うぐ、祐一くーんっ!!」
 さっ
 俺がよけたのでトランクから俺に抱き着こうとしたあゆがそのまま下に落下した。
「祐一君が逃げたっ」
「学習能力がないな。お前が攻撃してくるからだろう」
「攻撃じゃないよっ」
 いつもの会話だ。
「それで、なんであゆがいるんだ?」
「みんなで海に行くみたいだからボクも行きたかったんだよ」
 はぁ……
 なんで、それでトランクに忍び込むなんて方法をとるんだろう。
 秋子さんに頼めば1秒で了承がでるというのに。
「で、その格好はなんだ?」
 俺はあゆの腰のあたりを指差した。
 そこには浮き輪があった。
 どこで売ってるのかしらないが、たいやき柄だ。
「だって海だよ」
「俺は黙って名雪たちを指差した」
 ……
「あれ?」
 あれ? じゃない。
 名雪たちが持っているのは釣竿。
 決してビーチパラソルでもない。
「泳がないの?」
「ああ」
「うぐぅ……」
 本当に残念そうなあゆ。
 そうだな……
「それじゃ、あゆには撒き餌として役に立ってもらおう」
「まきえってなに?」
 分からないようで聞いてくる。
 その顔はうれしそうだ。
 『まきえ』をすると泳げると思ってるのかもしれない。
「魚をおびき寄せるんだ」
「どうやって?」
「あゆが海に飛び込んで餌になるんだ。これなら水につかれるぞ」
「ボク、美味しくないよ」
 なんだか、不毛な会話だ。
「とにかく、行こうか」
「うん……」


 俺達は目的の釣り場にやってきた。
 防波堤の先の方になる。
「それでどうします?」
 俺はあゆの事を秋子さんに聞いた。
「それでは、あゆちゃんには私の釣竿を使ってもらおうかしら」
「秋子さんはどうするんです?」
「私にはこれがありますから」
 次の瞬間、秋子さんの手には網があった?
 いつのまに?
 さっきまではそんなもの持っていなかった。
「それ……どこから?」
「スカートのポケットからです」
 ……最近、そんなスカートがはやってるんだろか?
「でも、ここで網を使ってもいいんですか?」
「駄目かしら?」
「多分」
「それでは、私は見てる事にしますね」
 こうして、俺達の釣りは始まった。
 あゆと真琴は全くやり方が分からないらしく、秋子さんが丁寧に説明している。
 名雪は経験あるようだ。
 結構慣れた手つきで餌を付けたりしている。
 こうして、釣りを始めた。


 ……
「なかなか釣れないな……」
 1時間近くたったが、小さいのが数匹だけだ。
 場所を変えた方がいいかもしれない。
 秋子さんにそう提案してみる。
「でも、ここで大きいのが釣れると今評判なんですよ」
 との事らしい。
 海を覗き込むが大きいのが泳いでいる様子はない。
 深いところだったら分からないが。
 あゆと真琴はあまりに釣れないのでもう飽きてしまったようだ。
 でも、さすがに名雪は……
「くー……」
 寝ていた。
 この状態で寝ていると海におちるぞ。
「秋子さん、名雪が寝てます」
「しょうがない子ね」
 秋子さんはそう言って、どこからともなく綱を出してきた。
 もう、深く追求はしない。
 そして、それを名雪に結び付ける。
 なるほど、もう片方をどこかに結んでおけば……
 秋子さんがきょろきょろを周囲を見回す。
 結ぶところがないようだ。
 秋子さんはちょっと考えて、場所を決めて反対側を結んだ。
 俺の体に……
「あの……」
「いざという時はお願いしますね」
 これでは下手すると、俺も道連れになるだけのような……
「でも……」
「ずっと、名雪のそばにいてくれるんですよね?」
 秋子さんがにっこりと聞いてくる。
 ……それって……
「奇跡は起さなくてもいいですから」
 ……あの……
「それをどこで……?」
「この前、名雪を起こしに行った時にちょうど目覚ましが鳴ったんです」
「まだ使ってたんかいっ!!」
 ボカッ
 思わず名雪の頭に一撃。
「いたい……くー……」
 でも起きなかった。


 こうして、俺と(寝ている)名雪と秋子さんが釣りを続けていた。
 あゆと真琴はそこいらで遊んでいる。
 精神年齢が近いのか、結構気が合っているようだ。
「本当に釣れませんね」
「そうですね」
「くー」
 あれからも、小さいのが2匹だけ。
 これではあまり面白くない。
「秋子さんは、よく釣りに来てるんですか?」
 暇なので今唯一の会話可能な秋子さんに聞いてみる。
 名雪が手慣れていることから考えると、結構やっていそうだ。
「いえ、そんなには来ませんよ」
 それは、たまには来てるということだろうか。
「でも、海は好きなんです。ベーリング海でギンザケ漁をしていた若い頃を思い出すので」
「へっ?」
 思わずへんな声を出してしまった。
 秋子さんって……
「祐一君。まだー?」
 突然、後ろからあゆの声が聞こえた。
 遊ぶのにも飽きたのだろうか?
 後ろを振り返ると、あゆと真琴がいる。
 ちゃぶ台を前にして……
 ちゃぶ台の上には茶碗が並んでいて、あゆと真琴が箸を両手に持っていた。
「まだー?」
 真琴もそう言いながら箸で茶碗をたたく。
 同様にあゆも。
「おまえら、そんなのどこから持ってきたっ」
 というか、どこでそんな行動パターンを身につけたんだ。
「分かった、分かった。タイが釣れたらたいやきにしてやるからまってろ」
「わっ、ほんと? 楽しみだよっ」
 あゆは本当に楽しみにしてるうだ。
「あのな……たいやきは、タイの形してるだけで魚は使ってないぞ」
「え? そうなの?」
 本当に知らなかったらしい。
 相当、ぼけたやつだ。
「もしかして、肉まんも肉じゃないの?」
 これは真琴。
 まったくこいつらの頭の中はどうなっているんだ。
「あれは肉だ」
「よかったーー」
 ……疲れる。
「ひょっとして……」
 秋子さんがあゆと真琴を見て聞く。
「あゆちゃんと真琴、お腹がすいてるの?」
「それなら、これを……」
 秋子さんがスカートのポケットに手を入れた。
 あゆと真琴がおもいきり動揺する。
「あ、えっと、ボクお腹いっぱいだからっ」
「真琴もいらないっ」
 そう言って2人とも走り去ってしまった。
「そう……残念だわ」
 取り出しかけていたものをしまう秋子さん。
 だが、俺は見た。
 そのポケットの口からちらりと、オレンジ色したものを。


「そろそろ帰りません?」
 俺はそう切り出した。
 もうずいぶん、時間は経っているし、大物が釣れる気配も無い。
 あゆと真琴は完全に暇を持て余している。
「そうですね」
 秋子さんも同意してくれた。
 俺は釣竿を片付け始めた。
 名雪に声を掛ける。
「おーい、名雪ー、帰るぞー」
「……うにゅ……」
 起きようとした名雪の姿が消えた。
 寝ぼけた頭で行動したので、自分のいる状況が分かってなかったのだろう。
 名雪は海に落ちていった。
「うわっ」
 そして、名雪と綱で結ばれてた俺も遅れて引っ張り込まれた。
 大きな音を立てて海に落ちた。
 あゆや秋子さんが叫んでいるのが分かる。
 真琴の笑い声らしきものも聞こえるが……
 まず、名雪をと思ったが下手すると2人しておぼれる。
 名雪も泳げるはずなので、俺はまず自分が上に上がる事を考える。
 いざとなれば名雪は綱を引っ張ればいい。
 すっと、上から何かが降りてきた。
 綱だ。
 秋子さん、まだ持っていたらしい。
 俺がそれを掴んで登る。
 もう服もびしょびしょだ。
「祐一君、大丈夫?」
 上にあがったところであゆが心配そうに声をかけてくる。
「ああ、俺は大丈夫だ」
 自分の体に結んである綱を引っ張る。
 名雪もなんとかはいあがろうとしている。
 さすがにこの状態でも寝続けている事はないようだ。
 俺が綱を引いて助けると、なんとか名雪も上がってきた。
「冷たいよ……」
 まぁそうだな。
 夏とはいえ、いきなり海に落ちたら。
 ん?
「名雪、それはなんだ?」
 名雪が両手で大きな魚を抱えていた。
 ひょっとして、藁を掴む思いで大きな魚をつかまえてたのか?
 魚は名雪に抱えられながらぴちぴちと跳ねている。
 名雪は自分の抱えているものをじっと見る。
「けろぴー」
「違う!!」
 まだ寝ぼけているらしい。
 どうやったら、それがけろぴーになるんだ。
「あら、今晩のおかずはそれに決定ね」
 せっかくだたか、あゆちゃんも夕食食べていかない? と秋子さんが提案して、あゆが嬉しそうにうなずく。
 俺達は帰る準備を始めた。
「今日一番大きなのを釣ったのは名雪さんだね」
 ふと、あゆがそんな事を言った。
「まて、それなら俺が名雪を釣ったぞ」
 綱で。
「あ、そっか。そうだねっ」
「ということで、その魚とあわせて70Kgで俺の勝ちだ」
「わたし、そんなに重くないよ〜」


 帰りの車内。
 すぶ濡れの俺と名雪は着替えもなく、車のシートが汚れるということでトランクに押し込められていた。
 行きのあゆ状態だ。
「狭いよ……それに祐一濡れてべたべたしてて気持ち悪い……」
「それはお互い様だって」
 狭いトランクで体を密着させながら、悲しみと幸せを同時に感じていた。







あとがき〜


海です。
釣りはあまりしないので、詳しく書けませんでした(^^;

ちょっと海に着くまでが蛇足だったでしょうか。

#タイトルは、2が出てるあれを意識して……
#これでプールに行けば完璧だったんですが(笑)



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