初日の光射し出でて

四方に輝く今朝の空



「年の初めの例とて」

text by くわね(kuwane@fc4.so-net.ne.jp


「先輩に年賀状出すよ」
 そう言ったはいいけれど、オレはふと考え込んでしまった。
 葉書に書いてあることを、先輩は読めるのだろうか。
 きっと自分では読めないだろうな。
 ならば、と代案を考えてみる。
 点字を書くためには特殊なピンかタイプライターと、専用の紙が要ると聞いたから点字というアイディアは却下。ドライヤーを当てるともこもこと膨らむペンはどうだろうかとも思うが、さすがにちょっと分かりにくいか。
 ……カセットテープでも送るか。
 しばらく考えてから、ようやくそこまでたどり着いた。
 カセットテープに声を吹き込んで、それを送ろう。
 早速駅前の店でカセットテープを買ってくると、オレはラジカセのマイクに向かった。


 部屋に帰ってきて、そのままベッドにごろん、と転がる。
 そうすると大体、ちょうどいい位置にラジカセが置いてあって、私は思わずそのスイッチを入れ、カセットテープを回してしまう。
 そのスピーカーから聞こえてくる声はいつも同じ。
 もう何回も、何十回も聞いたので、ノイズのタイミングまで覚えてしまった。
 最初にばちっと言う感じの音がして、少し間があって、声がして。もう一度、ばちっと言う感じの音があって。声がして。全部で3分もない、幅1/8インチの磁気テープに固定された記録。


 録音と再生のボタンを同時に押し、テープを回し始める。
「え……と、ども。オレ…じゃない。浩平です」
「みさき先輩、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
 それだけ言うのに20秒もかからない。
 片面5分しかない10分テープとは言え、まだほとんどが残っていることになる。さすがにこれじゃちょっとさびしいかなと思い、一度テープを止めて考える。


 去年のお正月、沢山のハガキに混じって一通だけ届いた手紙の年賀状。
 中に入っていたのは便箋ではなくて、一本のカセットテープ。
 お母さんに「この人。折原浩平って誰?」といわれて、すごく嬉しかったのを覚えている。
 私はすぐに自分の部屋に封筒も何も持っていって、ヘッドホンをして、ドキドキしながらテープを入れたラジカセの再生ボタンを押した。
 カセットテープ特有の20秒ぐらいのさーっという音のあと、声が流れ出した。


 歌でも唄うか?
 いつものことだが、まだ由起子さんは帰ってきていないから一人で歌を唄っていても怪しまれることはない、はずだ。
 だったらなにか正月らしい歌でも唄うか。でも、もういくつ寝ると、、は正月の前の歌だしなぁ。
 ああ。そういえば。
 再びテープを回し始める。
 先輩、笑うだろうなぁ、と思う。もちろん、年が明けて最初に会ったときは要注意だ。
「これだけじゃさびしいので歌でも一曲」


 挨拶の後、いったんぶちっといって音が切れて、そのあとに歌が入っていた。
 初めてそれを聞いた時、私は思わず笑ってしまった。
 大声を上げてではなかったけれど、他に誰もいない部屋の中で一人で歌を唄っている浩平君を想像すると、どうしてもくすくすくす、と笑い声が漏れてしまった。


「とーしのはーじめのためしーとてー
 おーわりなーきよのめでたーさをー
 まつたけたてて かどかどに………」
 唄ったのは「一月一日」。メロディだけはフジテレビの「新春スター隠し芸大会」で覚えていたが詞の方が怪しかったのでちょっとアンチョコを見た。
 一応2番までのフルコーラスを唄う。


 去年ウサギの絵の年賀状を送ったのと同じように、今年は(上手く描けたかは、知らないけど)龍の絵を描いた年賀状を送った。
 けれどもその年賀状は、戻ってきてしまった。
 一月一日。たくさんの年賀状の中に、私が浩平君に宛てた年賀状を見つけたお父さんは、私の字が汚いからだろうと言ってくれた。
 私もそう思いたかったけれど、そうじゃないっていうことは何となく分かった。
 私宛の年賀状と、戻ってきてしまった年賀状を持って部屋に戻ると、私は去年と同じように、ラジカセの再生ボタンを押した。
 去年と同じ、声がした。


「え……と、ども。オレ…じゃない。浩平です。
 みさき先輩、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「これだけじゃさびしいので歌でも一曲」

「とーしのはーじめのためしーとてー
 おーわりなーきよのめでたーさをー
 まつたけたててーかどかどにー
 いおうきょーうこそ たのしけれ………」


 ねえ浩平君?
「おわりなきよ」って、どこにあるの?

(了)







##あとがき##
 みさき先輩のシナリオで、年賀状にまつわる部分があります。
 あの部分、すごく好きな部分ではあるのですが、不満もあります。
 私はてっきりカセットテープでも送るんだと思っていまして、いつ年賀状を作るというイベントがあるのだろうか、と心待ちにしていました(笑)
 けれど、何もないままに1月に入ってしまって非常に落胆しました。
 もっと頭使えよ!主人公!と。
 そういう不満を自分なりに解消するために書いてみたのがこのお話なのですが、さてどうだったでしょうか。

 最後にもう一つ。「一月一日」の歌詞の「おわりなきよ」に漢字を当てると「終わりなき代」です。「終わりのない世界」ではなくて「終わりのない帝の治世」という意味になります。
 二番の歌詞にはその辺がもう少し分かりやすく書かれています。

初日の光射し出でて
四方に輝く今朝の空
君が御影に類えつつ
仰ぎ見ること尊けれ



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