桜の花の咲く
桜で知られる大きな公園。桜のシーズンだけにたくさんの人がいて、俺とあかりもその中にいた。去年と同じくふたりきりだ。
ただ今年は、雅史と志保が(雅史はともかくとして、あの志保も、だ)少しだけ気を利かせて予定のある振りをしてくれたという点が、大きく違う。
桜は大体七分咲きぐらいで、春先ののっぺりした水色の空とのコントラストがとても綺麗だった。
公園の中に付けられた道を、並んで歩く。
手をつなぐとか、そういうことはしていない。
「あ」
あかりが小さく声を上げた。
「どうかしたか?」
そう聞くと、あかりは植え込みの中から生えた雑草を指さす。
「ほら、ノビルだよ」
俺がその言葉の意味を理解できずに困った顔をするとあかりは、ほらこれ、とそこまで歩いていって雑草を示す。
やっぱり、わからない。
「これね、おひたしとかにして食べられるんだよ」
そこまで言われて、ようやく理解する。
「お前なぁ、こんなとこまで来て」
「こっちのナズナもお吸物とかに入れたりできるんだよ」
気が付くと右手に根っこからひっこ抜いた草(たぶんナズナだ)を2、3本持っているあかり。
「ここ、そういうの勝手にとっていいんだっけ?」
「え、あ」
「ま、取っちゃったものは仕方がない、と」
ため息をつく俺と、あはは、と照れ笑いするあかり。
どうすんだ?それ、と聞くと、持って帰って、料理しよっか。せっかくだし、と言いながら背中に背負った小さなリュックからスーパーでもらえる透明なビニール袋を取り出すあかりを見つめる。
少しして、それに気づいたあかりが頬を少し赤くして下を向く。
「何?」
「ん、なんでもない」
あかりはうつむいたまま草の根っこについた土を軽く払い、袋に入れる。
「ね、浩之ちゃん」
「ん?」
「あ、やっぱりいい。ごめん」
「………行くぞ」
俺が歩きはじめると、追いかけるようにあかりもあわてて歩き出した。
(了)
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