カエル
梅雨のある日、俺はみさき先輩と一緒に飲茶の店(もちろんバイキング形式のお店だが)に行った。相変わらず先輩はすごいペースで皿の山を机の上に築き上げ、俺も毎度のこととはいえそれを半ば楽しみ、半ば呆れ眺めていた。
そのペースがひと段落したところで、俺はふと思い出したことを口に出した。
「小学生の頃ってさ、この時期になるとカエルが道で潰れてなかった?」
「車に轢かれて?」
「そうそう」
カップルで、しかも飲食店の中でする会話ではない。そんなことが一瞬脳裏をよぎったが、俺はかまわず続けた。
「最近見ないけど、なんでなのかなぁ」
そうなの?、という気のない返事に、そうなの。と返す。
「やっぱり、減ってるからかなぁ」
俺のその言葉のあと少し間を開けて、先輩が言った。
「もしかしたらさ、カエルも学習するのかもね」
「カエルが?」
「車は危ないよって」
何それ、と怪訝そうに俺が言うと、私だって色々学習するよ、と先輩は唇を尖らせる。
それはまた、何か違うんじゃないか。そう思っていたら先輩は、カエルって言えば、話は変わるんだけどね、と続けた。
「小学生の頃ね、初めてタピオカを見たときにね、思ったんだけどね。あれってアマガエルの卵にそっくりだよね」
イヤなことをさらっと言ってのける先輩。しかも飲茶食べながら。
俺は隣に座る先輩の頭をぽん、と軽く叩いた。
少し間をおいて、小さい「ゴメン」が返ってきた。
(了)
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