_ 恩田陸の新刊。過去の毒による大量殺人事件について一人称の語りを積み重ねるスタイルのミステリで、最近の恩田作品に多いシステム。視点による語りのぶれはさほど大きくもないので、「夏の名残の薔薇」や「Q&A」のようなポリフォニックな響きの広がりは強くない。むしろ、個別の語りの蓄積は横の広がりというよりも上下方向への掘り下げとして、作品のテーマの「ユージニア」という語への集約と、それと平行するミステリとしての犯人探しの進行と、その二つの展開に作用している。
_ ただ、連載作品のせいかミステリ部分が重視されていて、肝心の「ユージニア」という語が活かされていないような気もした。その言葉としての説得力・魅力に比して、テキストからのイメージ喚起が追いついていなかったように思う。
_ いつも買っているサークルさんの新刊を求めて。くわね氏やthen-dさんのも確保していたので大抵の本で2冊買い。初めて買ったドム御一行「SUMMER DAYS」が良かった。表紙の乃梨子とか。そしていつものように白薔薇本ばかり。
ドム御一行「SUMMER DAYS」
羽根屋根「ここが私のありふれた場所」
ラクデス「てのひらの翼」
ラクデス「giulietta」
ラクデス「なくならない世界」
TUGUMIX「トライアングル」
宇宙猫軍団「乙女椿」
宇宙猫軍団「postscript」
宇宙猫軍団「サクラサクラ」
宇宙猫軍団「ちいさなこいのものがたり」
宇宙猫軍団「P:P:P:P:Pinky! 03」
_ 笑った。5分に1回ぐらい笑いポイントがある良質のギャグアニメ。最後の「青空」が流れる場面なんてほとんど出落ちの勢いで。思い入れが大きくて笑いたい何かを求めているなら見るべきでしょう。1800円は取りすぎだけど。
_ 真面目にいくつかコメントすると、金の使い方が間違っているのと脚本家の設計と演出家の実装の双方がへたれている上に齟齬があるんじゃないかと思う。
_ 金の使い方としては、舞台設定に一貫性や説得力がなくて、ロケハンとか地図作りをしていないとしか思えない。「観鈴の地図」がないってのもそうだけど、全体に都会過ぎるような気が。それ以上に、自由への経路である空、聖域としての海岸、閉塞した空間の限界であるバス停なんかの諸々の意味が世界から抜け落ちている。その割には八百比丘尼が囚われている山中の洞窟を継承してたりする。これなんかは、海岸の洞窟なんかにしちゃえば単純化ができると思うのだけど。TV版AIRは明らかにどっか実在の光景の写真をトレースしただけなのだけど、それゆえにリアリティ・存在感がある。鉄道(?)が出て来た時は毎回失笑ものだった。
_ 設計実装のへたれと齟齬という点では、SUMMERとAIR(もどき)の対比を軸とするならばもっとあけすけに個別の要素ごとに対応させるぐらいの勢いでやるべきだったような。演出もなんかわけわからん止め絵連発で、スタッフロールが日本人だらけのは大陸に出すほど枚数も予算もなかったんじゃないかと思うぐらい。100分という尺にしても、予算とって120分にするか、どんどん削って80分にするかすべきだった。
_ 個人的な趣味を言えば、そもそも後付の言い訳のような存在であるSUMMERを対比に使うこと自体が駄目で、カラス視点でAIR中心の話にDREAMをカットバックさせるぐらいの事はやってほしかった。少なくともゲームは(内在的に)そういう構造だし、映画においてそれが不可能なわけではない。
_ そういうわけで良かった点は多くないのだけど、往人と観鈴が自転車に乗るシーンは絵として好きだ。それと「青空」の後で羽音がする所もイメージの広がりがあって良いと思う。それぐらい。
_ then-dさんから書けとプレッシャーをかけられているようなので。
_ 電話話は世界設定話なので割愛。もう一つ「家」から旅立っている往人の話。むしろ彼には家がないはずで、放浪の中で生まれ育ち、その放浪の中で母とも別れたのではないか。というのが原作準拠の正式見解。ただ、今日になって気がついたのは、上述のことは一つの「意味」ではあるけれども、原作を無視するのならば「行く」のではなく「往く」人である往人として彼を捉えるのならば、つまり単に放浪の旅を行くのではなく、常に往路の途上にある存在としてみなすのならば、あるいは「家」からの旅立ちはあってもよいかもしれない。もちろんそれは原作の「SUMMER」同様の言い訳的存在ではあるのだけれども。
_ solidpop3dは便利なのだが、「ユーザ名として8文字までしか見ない」「FreeBSDのportsのつくりが単純」という問題がある。前者は前方8文字のマッチではだめな時にはそれっぽいソースをHackする必要がある。後者は、pkgtools.confのMAKE_ARGSに以下のように書いてみたりしている。
'mail/solidpop3d' => 'CONFIGURE_ARGS="--enable-pam --enable-apop --enable-bulletins --enable-last --enable-mapping --enable-nonip --enable-connect --enable-configfile --enable-userconfig --enable-standalone --enable-maildir"'
_ 31回メフィスト賞。去年の夏ごろに3分冊が毎月出ていたので、全部揃ったらまとめて読もうと思っていたのが、今頃まで延びてしまった。
_ 学校に閉じ込められた男女8人の過去に、2ヶ月前の学園祭でおきた自殺事件を絡めたミステリで、実際下巻の中盤には「読者への挑戦」的なものもあるのだが、本質的には青春学園もの。
_ ミステリで青春学園ものというと恩田陸の作品群があって、しかも本作も恩田作品好みの進学校・優等生といったキャラクタが登場する。そういった面では確かに恩田作品に似ているなと感じて、特に購入動機では多くを占めたのだけど、実際にはむしろ西澤保彦の青春もののような苦さがある。
_ 場面設定がトリッキーというかファンタジー的である割には、ルール設定が今ひとつ明確でないのがミステリ的には弱いけど、青春ものとしての面は相当好きだ。人に薦めたいところである。
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辻村深月「冷たい校舎の時は止まる 上」【 amazon / bk1 】
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辻村深月「冷たい校舎の時は止まる 下」【 amazon / bk1 】
_ やまさんやthen-dさんの話から。
_ TV版AIRは劇場版に比べればそれなりの成功を収めていると思うのだけど、やはりリニアな物語展開しか持ち得ないという所は弱いと思う。7話でわざわざ母親を明示して、「忘れてしまってもいい」という言葉を語らせてはいたものの、本質的にリニアでしかありえないストーリー展開は空の少女を救うことに収斂していく。ゲームにおいては、そこの自由は「空を風船に託す」「美凪と共に街を出る」といったエンディングで示されていたが、そのような可能性の広がりはやはりない。
_ SUMMERとAIRは始まりと終わりではあるものの、千の夏の中で特権性はない。「やりなおしたい」と願っても、やりなおした結果が正しいわけでもない。私にとって、AIRの魅力は幾度となく繰り返されること、「往き」続けることである。
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