『劇場版 艦これ』感想

以下、ネタバレを含みます。

艦娘と深海棲艦の話

『劇場版 艦これ』では、艦娘が沈むと深海棲艦になり、深海棲艦が沈むと艦娘になる、という世界観が示された。
そして、この艦娘と深海棲艦を巡る円環から逃れるために、艦娘は深海棲艦を打ち倒し続けながら、自らは沈んではいけない。
ゲーム内でのイベントボスの言葉などから予想されていたことではあるが、ここまで明白に語られたことはなかったように思う。

轟沈の話

ゲームとしての艦これは、艦娘の轟沈に強いペナルティを与える一方、(今となっては)明白な轟沈の基準を持つことで、艦娘の轟沈を極端に嫌うゲームシステムを持つ。
あるいは、ゲームの側にもこの艦娘と深海棲艦を巡る円環が取り込まれるような、例えば今までの艦娘の轟沈数でなにかが変わるとか、そういうことがあるかもしれない。

連合国艦船の話

艦娘と深海棲艦の円環を前提とするなら、艦これは「日本海軍(や枢軸国海軍)艦船が艦娘として再び戦う」物語ではない。過去の戦いに参加し、その多くが故郷から遠く離れた海中に没した艦船の物語である。
この物語では戦いのどちら側にいたかは問われない。ゲームに既に登場しているIowaやSaratogaのように連合国の艦船も艦娘になり得る。もちろん、深海海月姫のように深海棲艦にもなり得る。
また、『劇場版 艦これ』でもゲームでのイベントでも、ソロモン海の戦い、特にアイアンボトムサウンドが重視されるのは、この海域に多くの艦船が、それも日米(連合国)双方の艦船が多く沈んでいる、ことによるのだろう。

提督の話

『劇場版 艦これ』には提督が出てこない。
長門の台詞によれば「北方や中央海域の対応をしている」事になっているが、提督が遠地から指示を送ってくることもなく、物語に提督の意志は現れない。来襲する深海棲艦や近隣海域での変事には、作戦立案から部隊編成に至るまで長門や大淀といった中枢の艦娘が提督に代わって担っている。
艦娘と深海棲艦の円環を考えるとき、艦娘と深海棲艦が戦うことはこの円環の中核をなしている。ここには提督の介在する余地はなく、よって『劇場版 艦これ』物語にも提督の居場所はない。
むしろ、「世界の遠くどこかに提督がいる」などという言い訳をするぐらいなら、いっそ物語から提督を消してしまって、艦娘と深海棲艦は、彼女たちの他にはだれもいないあのサーモン海で戦いと転生をくりかえし続けているという構造の方が、よりシンプルで魅力的ではないか。

吹雪の話

とは言え、『劇場版 艦これ』には提督がいないと説明のつかないところがある。
なぜ吹雪の艤装だけが変色海域の影響を受けないのか、なぜ吹雪は前任の隊や根拠地を加賀に問われて答えられなかったのか。なぜ吹雪が物語の主人公なのか。
それは吹雪が提督に選ばれたからではないのか。