米澤穂信『いまさら翼といわれても 前篇』のはなし

 『いまさら翼といわれても』は千反田えるの物語になるだろうか。
 ある休日、折木は市の合唱祭の会場から千反田が突如消えたという連絡を伊原から受ける。千反田は何を思い、どこへ消えたのか。というのが今回の前篇だ。
 物語の冒頭には、自宅で合唱曲の練習をしていた千反田が父に「だいじな話をするときによく使う部屋」に呼ばれるシーンが書かれ、また事件の導入部には伊原が遭遇した「甘すぎるコーヒー」を出す喫茶店の謎が置かれている。

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パスポート

赤いパスポートを手に取る。 ――MACHI TACHIARAI 大刀洗万智。発行年は二〇〇一年。有効期限が切れていたものを、先月取り直した。 『王とサーカス』, p.11  大刀洗は2001年に有効期限が切れていたパスポ … 続きを読む

サーカス

「自分に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ。」 『王とサーカス』, p.175 「タチアライ。お前はサーカスの座長だ。お前の書くものはサーカスの演し物だ。我々の王の死は、とっておきのメインイベントとい … 続きを読む

『遠まわりする雛』が好きなあなたに『折れた竜骨』を薦める

『遠まわりする雛』および<古典部>シリーズのネタバレを含みます

  • 『遠回りする雛』

『遠回りする雛』は<古典部>シリーズの四冊目、主に『小説 野性時代』を初出とする短編を集めた、今のところシリーズ内唯一の短編集である。冒頭の『やるべきことなら手短に』は奉太郎が千反田に出会ってすぐの『氷菓』と同じ時期の話で、そこから彼らの一年間を追う形で七本の短編が収められている。なお、<古典部>アニメ版である『氷菓』では短編集未収録の『連峰は晴れているか』もふくめ、全て時系列通りに並べ直してシリーズを構成しているので、各短編がどの位置に入るかはアニメ版を参考にすると良い。

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